第16話 かわいいは実用性に勝る
女の子が魔法使いと思しき人に縋りついていた。
「えぇい離してくれ!」
「お願いですから私と一緒に来てくださいよー!」
「悪いがほかを当たってくれ!」
「そこを何とか~」
魔法使いさんはにべもないが、女の子もなかなか諦めが悪いなぁ。
ふたりはギルドの真ん中でしばらく大騒ぎを続けた。
やがて職員の人たちがやってきて、女の子を引き剥がす。
「えぇーん、離してくださいよー!」
「ミクさん。さすがに諦めてください」
ミクさんは涙目でに手をパタパタさせる。
魔法使いさんの方は助かったと言わんばかりに、そそくさをギルドを出ていった。
「あ~~~」
ミクさんはガックシと膝をつく。
な、なんだか着いて早々大変なものを見ちゃったな。
人目も憚らずにあんな大騒ぎするなんて、よっぽどの事情があったのかな?
まあ、私たちには関係ないけど……。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
って、ナディアちゃん早速声かけてるし!
「ふえ?」
ミクさんが半泣きの顔を上げる。
「あなた、魔法使いですか?」
「ううん。あたしは戦槌士」
「なんだ~……」
「でもあたしの仲間が魔法使いだよ」
「ホントですか!?」
ギュインッとミクさんが食いつく。
「うん。ね、カナデさん」
「は、はい」
話を振られ、私は仕方なく頷く。
するとミクさんは四つん這いのままこちらへ近づいてきて、私のローブを掴んだ。
「お願いします~! どうか私とパーティ組んでください~」
「ひえっ」
そんな引っ張られたら脱げちゃう!?
「もうあなたしかいないんですぅ! せめて話だけでも聞いてください~」
「わ、分かりました!」
「ホントですかぁ!?」
「は、はい。だから手離して……」
とりあえず私たちは2階のテーブルに3人で移動した。
「それで何で魔法使いが必要なんですか?」
「実は……私、ペガサスを狩りたいんです」
「ペガサス?」
ナディアちゃんが首を傾げる。
「翼の生えた白馬のモンスターですよ」
別名で天馬とも呼ぶ。
戦う時の推奨Lvは90前後。
熟練冒険者でようやく手が届くレベルだ。
「ちなみにミクさんのレベルをお窺いしても?」
「32です」
うーん、無謀。
それに「狩りたい」ってことは……。
「もしかして天馬装備が欲しいんですか?」
「……! はい!」
ミクさんは勢いよく何度も頷く。
やっぱりそっかぁ……。
「カナデさん、天馬装備って何?」
「ペガサスから獲れる素材を使った装備一式のことですね」
「へぇー、それってすごいの?」
「人気はすごいですね」
モンスターの角や皮を使った装備品にはいろんな種類がある。
その中でも特に人気なのが天馬装備だ。
上から下まで美麗な純白鎧で、翼の意匠が施されてる。
武器もこれまたペガサスの角を加工した槍で、鎧と統一感があって非常にお洒落。
ちなみにその人気の高さから、『ボーダレス』のCMの広告塔にもなっていた。
懐かしいなぁ。
あのCMを見て私も『ボーダレス』を始めたんだっけ。
「ふーん。でもさ、聞いた感じ別におかしな依頼じゃないよね」
「まあ、素材目的でモンスターを狩る依頼はありふれたものですが」
「なら何で誰もミクちゃんとパーティ組んでくれないの?」
「うっ!」
ズバリ言われてしまい、ミクさんは胸を押さえる。
「それはー……たぶんミクさんのレベルが足りないのと」
「のと?」
「……天馬売却問題ですかね」
天馬装備は確かに人気だ。
ただそれはあくまで見た目の話。
性能的な話で言うと、強いけど最強じゃないくらいの塩梅だ。
「ペガサスを狩れるレベル帯だと、もっと強力な装備を揃えられる人ばかりなんです」
「ふむふむ」
「なので実用性を取る人はペガサスの素材は売却しちゃうんですよね」
しかもこれがまた高く売れるのだ。
出現率が低いため最効率の金策ではなかったが、効率厨ほど偶然手に入ったペガサスは換金していた。
正直言うと私もそちら派。
いや、ゲームの頃の話だけど!
「というわけで、ペガサスは装備派と売却派で大きく意見が分かれちゃうんですよ」
「はい……」
ミクさんはショボンと肩を落とす。
「パーティを組んでもいいって人もいたんですが、どうしてもそこで揉めちゃって」
「依頼の報酬にペガサスの一部を分け前に欲しいって言われました?」
「はい。でも私は装備一式を揃えたくて……」
かといってその分の報酬を上乗せできる手持ちもない……と。
「ねぇねぇ、ミクちゃんは何でそんなに天馬装備が欲しいの?」
「それは……!」
肩を落としていたミクさんが顔を上げる。
「だって一目惚れしちゃったんです! あんなにかわいい装備、誰だって憧れるじゃないですか!」
ミクさんは頬を紅潮させ、興奮気味に叫んだ。
「……!」
その純粋な叫びに、私も一瞬ハッとする。
そういえば私も最初は天馬装備のCMに惹かれてゲームを買ったんだっけ。
まぁ装備を揃えるための効率的なレベル上げを調べてる内に、気づいたら効率厨になっちゃってたんですけど……。
まぁ私の話はともかく。
「お願いします! ペガサスを狩るには魔法使いのおねーさんが必要なんです! 私に力を貸してください!」
ミクさんはそう言って頭を下げる。
なんだか前にも似たようなことがあった。
あの時は私にしては珍しく、人からの頼み事を引き受けたいと思った。
そして、今も同じ気持ちだ。
「……私はいいんですけど、ナディアちゃんは?」
「あたしもいいよー」
私たちが頷くと、ミクさんがまた目尻に涙を溜める。
「あっあっ……ありがとおぉぉぉ!!!」
そうしてミクさんは嬉し泣きしながら、テーブルを跳び越して私たちに抱きついてきた。
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