第4話 ナディアちゃんとの二人旅
翌日、私とナディアちゃんはタルイモフ山の麓を目指して西都を出立した。
「お姉さん! 早く早くー」
「ま、待って~」
ナディアちゃん元気だな~。
街を出てもう数時間は歩いているのに、彼女の健脚は衰えることを知らない。
私も冒険者としてそれなりに鍛えてるはずなんだけど。
思えば前のパーティでは、皆歩くスピードを私に合わせてくれてた気がする。
知らない内に甘やかされてたのかな?
それともまさか歳の……。
いやいやいや! 私まだ20代だし!
「~~~」
私は降って湧いた恐ろしい考えを頭から追い出す。
「どーしたの?」
「なな何でもないですよ!?」
心配してくれるナディアちゃんに、私はどもりながら返事をする。
彼女は不思議そうに首を傾げていたけど、ふと何かに気づき。
「わっ! あれ何だろう!?」
そう言って彼女は街道脇の森に、小走りに入っていってしまう。
「待って~ナディアちゃ~ん」
私は慌ててそのあとを追いかける。
ナディアちゃんは何かを見つけると、それを確かめずにはいられない性格らしい。
それは地面にできた奇妙な模様だったり、変な虫だったり、綺麗な花だったりする。
こういう寄り道もすでに5、6回目だ。
ちなみにだけど、特に冒険に役立つアイテムとかを見つけたことはない。
ゲームなら非効率すぎるとパーティメンバーに怒られるところだ。
でも、ここにはそんな人間いないので、私も気にしないことにした。
効率プレイとか恋愛トラブルとか、様々なしがらみを捨ててきたお陰で、今日の私はなんだかとっても晴れ晴れとした気分だ。
タルイモフ山の麓にある温泉街まで普通なら2、3日の行程だ。
けど別に急ぐ旅でないし、ナディアちゃんのペースに合わせてのんびり行くとしよう。
「お姉さーん!」
と、一足先に森に入っていったナディアちゃんが急に森から出てきた。
なんだかやけに慌てているような?
「どうかしましたかー?」
「ゴブリン!」
端的なひと言とともに、彼女はズザザーと足でブレーキをかけながら後ろの森を振り返る。
「ギギギー!」
ちょうどその時、森から3匹のゴブリンが飛び出してきた。
「何か光ったな~と思ったら、あいつらの武器が反射してたみたい」
「えぇぇ~!!」
行楽ムードから一転、唐突な戦闘に私は素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「よっしゃー! かかってこーい!」
一方、ナディアちゃんはやる気満々。
彼女は背中のバトルハンマーを引き抜いて両手で構え、後衛の私の前に出る。
き、切り替えはっや!
「あっ! ちょ、ちょっと待って……!」
遅ればせながら私も杖を構えた。
「《プロテク》
《ファスト》
《クリティカ》」
私がスキル名を叫ぶと、自動で魔力が消費され、魔法が発動する。
この世界の戦闘はゲームの『ボーダレス』を踏襲した法則が働いているらしく、スキルを選べば勝手に魔法が発動してくれる。
お陰で長い呪文とか覚えなくていいので楽チンだ。
「とりあえず防御と素早さと会心率にバフしておきました」
「わあ! お姉さんありがとー!」
「いえ、このくらい」
喜んでぴょんぴょんするナディアちゃん。そんなに喜ばれると少し照れてしまう。
「ね、念のためもっとバフしておきますね。
《クリティカ》
《クリティカ》
《クリティカ》……」
「わわわっ! なんかめっちゃ光ってるし!」
魔法の光に包まれながらナディアちゃんは楽しそうに笑う。
「よーし! それじゃあたしも張り切っちゃうよー!」
彼女のジョブは戦槌士。
その特徴は何と言っても会心ダメージの高さ。
運がよければ大ダメージ。
運が悪ければ空振り三振。
そのロマン溢れる特性から、一部界隈では非常に人気の高いジョブだった。
「《ラリアットハンマー》!」
ナディアちゃんがスキルを発動させ、ハンマーを横向きに振りかぶる。
「!」
そのまま彼女はゴブリンたちの懐に飛び込むと、ハンマーをフルスイングした。
「ギ!?」
「ギャ!?」
「ギエッ!?」
3匹のゴブリンの悲鳴が、彼女のハンマーによってまとめて薙ぎ払われる。
「おお~!」
思わずホームランと言いたくなるような、見事なかっ飛ばしだった。
「……」
あれ? ナディアちゃん震えてる?
「ナディアちゃん、どうしたの?」
「……スッゴーい!」
ナディアちゃんはこちらを振り返ると、いきなり私に抱きついて肩をガクガク揺さぶってきた。
「お姉さんって、もしかしてスゴ腕!? あんなに沢山のバフもらったことないよー!」
「そ、それほどでも……」
「それほどでもあるよー!」
私は謙遜するが、その後も彼女はスゴいスゴいと飛び跳ねていた。
っていうか、やっぱりナディアちゃんって私が西都一の魔法使いだとか、全然知らないんだ……。
もしかしたら、実は私のこと知ってて声をかけてきたのかも……なんて、暗い想像を昨日寝る前にしてたけど。
それはどうやら杞憂だったみたいだ。
「ほ、ほら! ゴブリンも倒したし、早く先へ進もう」
私は緩む頬を押さえながら、ナディアちゃんを促した。
「うん! 行こっか」
ナディアちゃんは満面の笑みで頷く。
はぅ!
ナディアちゃん、かわいいなぁ~。
思えばこんな風に年下の女の子に慕われるなんていつぶりだろう?
正直まるで思い出せない。
その分余計に彼女のことがかわいく感じる。
「お姉さん、ニコニコしてどうしたの?」
「う、ううん! 何でもないよ~」
私は慌ててキリッとしようとするが、どうしても頬の緩みを抑えられない。
それからしばらくの道中、私は終始ニコニコしっぱなしになるのだった。
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