ごめんじゃダメなんだよ

ヒサヒトヒリュー

虚話


 たまに、自分が世界で五百番目くらいに凄い人間だと思う時が有る。

 逆に、世界で一番最低な人間だと確信するときがある。


「私のこと好き?」


 そう聞かれたら「もちろん好きだよ」と返すしかないからそう答える。

 好きなのは変わりないけど、自分の意思が無いように感じた。でも、嘘ではないと信じたい。

 

「一人でいたい」

「一緒にいよう?」


 この二つの言葉は同時には出ないけど、たった数分の間で何回も交互に言うことが出来る。君はそんな僕に付き合ってくれる時と、怒る時が有る。

 友達には、理解が有って良い関係だと褒められて嬉しかった。自分でもその通りだと感じた。ロボット的な会話でもAI的な返しでもない。

 君という人間と僕という人間が心を通わすプロセスを順番にふんでいっているようで、大層誇らしかった。


「おねがい」「ありがとう」「ごめんなさい」


 色々な言葉を交わしても、何度同じ言葉を言おうとも、この三つを欠かすことだけはしないと決めていた。


「大丈夫? 僕がやるよ? 休んでて?」


 決まって僕は君が安らかになるように言う。


「好きだよ」

「愛している」

「ずっとそばにいよう」


 愛の言葉は枯れることなく、際限なく、僕のこの溢れる感情のままに、思いついた時に必ず、口にした。


―――けれど今、僕は一人。


 何故だ? どうして? 理解が出来ない。

 夢のようにあった時間も。際限なく湧いて出る愛情も、どこに行けばいい? どこに向ければいい?

 疑問は止めどなく、混乱は極限に、愛憎は唇を噛み切り。

 言葉はいつも足らなかった。


 あの時、彼女にああ言っていたら、言われていたら、僕は変われた、この関係は変われた。現実が変わっていた。

 後悔が溢れ出る。

 臆病な自分がにじみ出る。

 恐怖が僕を殴りつける。


「あなたって、薄っぺらいね」


 彼女が荷物を取りに来て、最後に残した言葉。

 言葉はいつも多かった。

 大事だと思っていた言葉も、必要だと感じていた気遣いも、馬鹿みたいなプロセスも、人間感情を語るうえでの必須項目でも何でもなく、ただのエゴだと知った。

 嘘じゃない。綺麗ごとじゃない。嘘な時もあった。思っていない時もあった。

 でもその違いは分かるのか? きっと君には分からない、分からない。分からない―――けれど、きっと君にとっての僕は……。


 誰よりも大事だった。誰よりも大事にしてみたかった。

 分かってくれ、嘘じゃないって。


 結局は、僕も、彼女も、友達も、誰も何も分かってない。

 本質は見えない。

 見えた気になっただけの世界で好き勝手生きている。

 ただ、僕は君の勝手に成れなかっただけの話。

 言葉はいつも―――無力だった

 

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ごめんじゃダメなんだよ ヒサヒトヒリュー @hikawaryu

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