第13話

 それは正に竜巻のような生物だった。

 寝ているのを起こされたことに怒るディノトログロフは地団駄を踏む様に地面を叩き、天に響くほどの咆哮をあげる。

 そして、まず目についた弱者に狙いを定めたのだ。

 正に最悪だ。

 僕は転がるように森の中へと逃げていく。

 しかし、ディノトログロフはその巨体と怪力に物を言わせ、木々を薙ぎ払いながらこちらの方へと向かってくる。倒れた巨木をこちらに向けて手当たり次第に投げてくる。飛び散った木片が散弾銃のように飛び散り、木々の幹に突き刺さる。

 暴れ狂う大王はこのまま森の全てを破壊せんとばかりに怒っていた。

 散弾銃を避けるべく木々を背に走る。どれほど近づいているのか、振り向くことさえも怖くてできない。

 しかし、その音は確実に遠退いている。

 あの巨体だ。いくら木を薙ぎ直していると言っても逃げる僕の方が早い。

 何とか逃げ切れる。

 ……瞬間。違和感が脳裏に突き刺さる。

 眩い光が僕のすぐ横を通り過ぎた。

 大地を、木を、そして雲さえも裂く高濃度の魔力を帯びた咆哮。全てを焼くその光の主は僕を追う暴君をものであることはすぐにわかった。

 その焼けた大地を暴君は一直線に駆ける。

 思考が溶けていくと同時に僕の膝の力が抜けた。

 コワイ。何でこんな目に遭っているんだ?

 迫りくる巨石のような怪物。それは死が形を持った化身にも思える。

 絶望に現実を拒否する脳みそは完全に停止し、ただ迫りくるオワリを受け入れている。

 齢十年。訳も分からず二つの目の命を貰ったというのに、この終わりは呆気ないにもほどがある。

「助けて、神様……」

 誰にも届かぬ声。歪む視界に固まる体。嗚咽。

 最早、音さえも聴こえなくなった。恐怖の世界は静かだった。

 迫りくる死がついに僕の前に姿を現した。

 僕の腕よりも太い爪をむき出しにこちらに飛び掛かる。



 …

 ……

 ………

 目を開く。

 

 ディノトログロフはいない。

 いや、正確には違う。ディノトログロフはラクシャクレーンの群れに襲われていた。

 ラクシアクレーンもまた群生生物。そして、彼らはプライドの高い生物であるが故に、例え相手がディノトログロフであろうと、自らのナワバリに足を踏み入れる存在を許しはしない。

 ディノトログロフもその大木の幹のような腕を振り回し抵抗するが、なかなか空を飛ぶ敵を捕らえることが出来ずにその体に啄まれていく。

 考えるよりも先に体が動いた。

 当初の目的などは既に忘れ、ただ生存という本能に突き動かされた僕の身体は逃走を開始した。

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