第9話
結局、一晩では旅の目的は見つからなかった。
ドラゴンに財宝、多くのダンジョン。どれもこれも僕の食指を動かすには至らず、僕は一時的にその考えを保留することにした。
「そう簡単に夢追い人にはなれないか」
既に昼間だというのにベッドに横たわって、怠惰な時間を過ごしていた。
いくら当分の稼ぎがあると言っても、次の依頼を見つけなければ金銭もそこを尽きるだろう。
今はやれることをやるしかない。
ひとまず、ギルドに行って依頼を見つけるとしよう。
冒険者ギルド。
件の鉱石は通常取引の一.五倍の価格で買い取る発表があり、期間中に稼ごうと多くの冒険者がリトスミテラに向かったようだ。
そんなわけで今、ギルド内はいつもよりも人が少なく、依頼も程よく残っている状態らしい。
掲示板に貼られた依頼を見ると、いつもならすぐになくなる依頼もまだ残っていた。
薬草の採集に、討伐依頼、それに配送依頼か。
薬草採集は都市の直ぐ近くにある丘で採れる簡単なものだ。その分報酬も日銭を稼ぐ程度で、すぐ終わるものだからついでに受ける程度でいいだろう。
となれば討伐依頼か、配送依頼。
討伐依頼はリトスミテラとの間にある村で農作物を荒らされているため、魔物を対峙してほしいというもの。依頼の危険度を表す難易度は十段階中のⅢ(低いほど簡単)を示している。
配送依頼は都市の南にある湖付近の村、リムニー村に薬品を配送してほしいというもの。こちらの難易度はⅡと低いため受けるならばこっちの方がいいだろう。
リムニー村は村という割には規模が大きく、僕の住んでいた村に比べても人も土地も倍以上だ。さらには湖を使った産業も豊富で、飲み水やそれを使った農作、湖での漁業に観光名所としての側面もある。
リトスミテラが鉄の街だとしたら、リムニーは湖の村と言ったところだろうか。
ちょうどこの時期は水浴びもできるシーズン。観光がてら行ってみるのも悪くないだろう。
そうと決まれば早速受けることにしよう。
僕は張り紙を手に受付へと赴き、依頼受諾の手続きを行った。
依頼主は街で薬品を取り扱っているポチオンさんだ。ふくよかで優しそうな女性だった。
届けるのは彼女の調合した傷薬やポーション、計二十本。僕はそれを割れないよう梱包すると鞄の中にしまう。
日が暮れるまであと二時間ほど、リムニーまでは片道一時間半ほどかかるため、今日は向こうに泊まることになるだろう。
既に空は少し赤みを帯び始めている。早々に出発しよう。
道中、ポチオンさんに貰ったパンを食べながら歩いている。
配送に関して行商人や荷運びをしている馬車に依頼した方がいいのではと思ったが、リムニーの方面は湖がある関係で、リムニーを抜けた後に他の村まで遠く中々そのルートを通る馬車がないようだ。リムニーから来た馬車も定期的に来るが、それでは間に合わないこともあるようで冒険者に依頼がくるらしい。
青々とした草原。風に揺れる草花の香りが鼻をくすぐる。
花の蜜を吸おうとやってきたナイトスカイ(星空のような羽根を持つ蝶々)、少し遠くには普段水辺に生息している陸上カバのスワンプヒッポが見える。
魔獣や魔物と一口言っても、それが人にとって有害であるわけではない。
スワンプヒッポは泥と一緒に泥中の虫を食べて生きており、その泥交じりの糞はいい肥料となる。他にもホーンラビットは角は薬になるし、その肉はシチューなどに使われている。シルクスパイダーの糸は絹に近い特性を持つため、人々が使うシーツや衣服の材料になっており、農村の作物を狙う害虫も食べてくれる益虫だ。
この世界に来るまで人と生物の共存関係というものをよく知らなかったが、人々が生活するうえで他の生物がいかに必要なのかということが知ることができた。
だからこそ、命には感謝をしなければならないし、人もまた自然の一部なのだということを感じられた。
前の生活では誰かのためになっている実感なんてものはなかった。
上から言われた仕事をただひたすらにこなし、無為に日々を過ごすだけの日々。
それが悪いものはないのだが、生きているという実感を感じられるようなものではなかったのだ。
今、僕はちゃんと役に立てているのだろうか。
そんなことを考えながら長く続く道を歩いていく。
いつか、僕の冒険に意味ができることを願って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます