第5話
中央都市『グラーシャ』。
国王の統治する城下都市であり、全ての物流の中心でもある。
軍や研究施設などの多くの施設も存在しており、それらに従事した人々も住む大都市。
グウェンの計らいもあり、ウィリアムもこの都市に入ることが叶った。
中央都市に入るには通行証を持った者を保証人とするか、商人ギルドや学園などの施設から発行される特別通行証を持っている必要がある。
ウィリアムのような冒険者が初めて入る場合には、まず検問で入国審査を受け、その後に様々な手続きを行って、一か月の審査の末に合否判定を受けることとなる。
が、それも初回で通るものはほとんどおらず、大体の人間は半年ほどかけてようやく認可が下りる。
当初の予定では、フェリオールを保証人に通行証を発行する予定だった。しかし、先の件でその予定も頓挫したこともあり、偽造通行証を作ることを考えていたウィリアムであったが、グウェンが保証人になってくれることとなり、安全に通行許可証を発行するに至った。
ウィリアムが発行したのは狩猟許可と行商許可を合わせたハンター許可証である。
特殊な物品の取り扱いに関しては、その都度認定許可の試験を受ける必要があるが、一般的な商品に関してはこれで取引をすることができる。
一連の手続きを終えたウィリアムは旅立つグウェンたちと別れ、この都市にしばらく滞在することとなった。
ひとまず、これで啓示は達成されたとみていいだろう。
が、これから食べていくには何よりも仕事をこなす必要がある。
ギルドでの冒険者手続きは完了しているが、待っていても新人の彼に依頼が来ることはまずない。実力と経験に裏付けされた冒険者でなくては、ギルド経由の個別依頼は受けることができないからだ。
よって依頼はギルド内のクエストボード(依頼を貼った掲示板)に貼られたものから選ぶことになるのだが……。
「……依頼がない」
簡素な依頼は既に他の冒険者が持って行っているため、彼の受けられる依頼は残っていないのだ。
もう少し小さい街であれば薬草や簡単な狩猟で手に入る素材の納品もあるのだが、ここは中央都市、そういった素材は納品を待つよりも購入した方が早く手に入ることもあり、そうそう依頼を出すことはない。
行商人ギルドの方の納品依頼も、今は熟練の冒険者がこなすような特殊素材のものばかりで新人に回せる仕事はないようだ。
いきなり出鼻をくじかれたウィリアムは致し方なくギルド本部の一階にある酒場へと足を踏み入れた。
昼食時ということもあり、多くの人々が話をしている。
もしかすれば仕事の依頼もあるかもしれない。
ウィリアムはパンとブイヨンスープを購入すると、それを持って席に着き、それを食べながら聞き耳を立てることにした。
”そういえば新しく勇者の認定試験があるそうだぜ”
”おう、俺も応募したぜ。魔王軍は最近勢いが落ちてるからな、俺でも倒せるんじゃねえか!”
”バーカ、お前こないだベアウルフからも逃げてたじゃねえか”
”軍が戦争準備してるって噂もあったが、これじゃ軍が出る間もなく終わりそうだな”
他愛もない雑談ばかりで、依頼になりそうな話はまるで聞こえてこない。
これじゃあ食いっぱぐれだ、と肩を落としているとこんな話が聞こえてきた。
"そういえば鍛冶屋のジジイが鉱石集めの人材を探してるって話どうなった?"
”あぁ、明日にでも依頼が来るんじゃねえか? 戦争準備で大量の鉄鉱石や銅が必要みたいだからな、ドワーフ連中も駆り出されてたし、早えやつは既に鉱山に向かってたぜ”
”俺は貯蓄してるのがまだあるからな、今回は楽に稼げそうで助かるぜ”
鉱石の採掘。都市の西にあるアドリアス鉱山の坑道に行けば鉱石を集められるだろう。
鉱山はその昔、レッドドラゴンが住んでいたという逸話もあり、そのほかにも多くの魔獣が住み着いている。本来ならばもう少し装備を整えてから向かうべきだが、今のウィリアムは仕事を選べる状態ではない。
それに坑道付近は軍の屯所もあり、比較的安全な場所でもある。そこなら素人のウィリアムであっても採掘を行えるだろう。
決めたら即行動するのがウィリアムの良いところだ。
パンをスープに浸し一気に食べ終えると、彼は早速冒険の準備をすることにした。
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