第3話 

 村に着いた僕たちは当初の予定通り、中央から少し外れた村の闇市にフェオリーノの商品を売り払った。

 この村にはフェオリーノのことも、その護衛団のことを知るものも多くないらしい。知っている人間も彼の裏の顔を良く知っている人間ばかりの為、彼について詮索するものはいないそうだ。

 村は忙しなく多くの人々が行きかう。

 村の商人たちに住人達、買い物に勤しむ家族連れ。刺青塗れの道化師が道端で芸を披露する。町を徘徊する人々の中には浮浪者の姿もあった。

 フェオリーノの荷物は高く売れた。

 目のいい商人を避け、言い値で買う商人を見つけられたのが大きい。

 なんてことの無い石ころを金貨二枚で売りつけたのは悪い気もしたが、おかげで奴隷商に売られずに済んだのは大きい。

「お前のおかげでいろいろ儲けられた。よければ中央まで送るが、どうする?」

 グウェンさんは分け前を少しくれた。銀貨三十枚。これだけあれば暫く生活には困らないだろう。

「ありがたいですが遠慮します。少しこの村でやりたいことがありますので」

 残念そうに「わかった」と吐くグウェンさん。僕らはその場で別れた。

 僕はグウェンさんに隠していたものがある。それは商品の一部とフェオリーノの通行証だ。これから旅をするのならこれは必要になる。

 通行証と盗んだ商品の鉱石を持って、僕は裏の道へと入っていく。先ほど見たのが正しければこの辺に僕の目的の店があるはずだ。

 路地の裏。人通りもなく、虫とネズミの住処には往々にして相応しい店がそこにあるものだ。

 木造りの小さな扉。擦りガラスの小窓の付いた扉を開く。

 ほこりかびの匂い。陰気臭い店内の不愉快になるほどの湿気。

 小さな店内にはアンティークな骨董品や薬品の入った瓶が並んでいる。陰気な店だというのが正直な印象だった。

 店頭で店の番をしているのは初老の男だ。生え散らかした髭、脂ぎった髪、不健康に痩せこけた顔で新聞を読んでいる。

 こちらに気付いた店主は視線を上げるが、相手が子供と分かった瞬間、迷惑そうに睨み新聞に視線を戻す。

 僕は店主の男の前に通行証と銀貨の入った麻袋を投げる。

「学生通行証、作ってくれる?」

「何のことか、他をあたってくれ」

 溜息を吐く男はこちらを見ようともしない。やはり子供は相手しないつもりなのだろう。

「さっき、ここから出ていった人が通行証を見ながら出てきたのを見たよ、作れるよね偽造通行証?」

「知らんな」

「何が不満なのさ、お金なら払うよ?」

 絹を掴むような感覚。

 当然と言えば当然。相手は子供でその内容は違法行為。裏の人間ならば相手にしないのも頷ける。だが、それでは困る。

「お願いします、作ってください」

 今更と思われるだろうが、頼み方を変えてみることにした。通行証が無くては、この先の旅に不安が残る。

 別の村や町で偽造通行証を作ってくれる商人を探してもいいが、それではいつになるかわからない。

「作らんと言っている。ガキ相手の商売はしない」

 作っていることは認めた。だが、どうにも首を縦に振らせるのは難しそうだ。

 ならここは冒険者らしく行こう。

「じゃあ、何か困ってることない?」

 世の中はギブアンドテイク。持ち得ぬものは信頼。ならば勝ち取るまでのこと。

「……バイコーンの角。特別指定交易物だ、それを一本持ってきたら作ってやる」

 バイコーン。羊の頭と馬の体を持つ二角獣の魔物。生息数こそ多いもののある程度の実力があれば捕獲可能な魔物であるため、その角の乱獲が発生。生態系破壊を恐れた国際組織の認可を得た商人及びギルドにのみ取引を許されたものだ。

 無論、違法行為。が、偽造通行証を作るのも使うのも違法行為なのだから今更というものか。ならば……。

「引き受けるよ、その依頼」

 リスクはあるがメリットもある。腹をくくれば道は開けるというものだ。

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