Day28 対峙(お題:方眼)
その町の地図を広げると、まるで方眼のようで、規則正しく真四角に区切ったますめのように、家々が整然と立ち並んでいた。計画的に作られた町らしく、無駄などなく、綺麗に並んでいた。家を探すにはとても探しやすい町でもあった。
メモした住所と、地図を元に場所を割り出して、二人で歩いていった。
これから向かうのは、サミーが持っていたと思われる新聞記事に書かれた住所。つまり、行方不明者の記事を載せてもらった住民だった。
サミーがそこを訪れた可能性が高い、もしくはいなくてもその後の居場所がわかるかもしれないと思い、二人で行くことになった。仮にいなくても、その人物とは話はしたかった。
一軒の赤い屋根の家が見えてきた。地図によれば、あの家だ。
近づくと、ちょうど玄関の扉が開いた。そこから三十歳過ぎの女性が出てきた。
彼女と視線が合うと、私とグレンさんは頭を軽く下げた。女性もつられて、頭を下げる。
「こんにちは、初めまして。少しお伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
女性は少し難しそうな顔をしていた。
「短時間ですか? 実は病人がいるので、手短にしていただけるのなら、お聞きします」
「病人?」
私は反射的に聞いていた。
「もしかして、サミーという男性ですか?」
女性は目を瞬かせた。
「サミーさんのお知り合いですか?」
「はい。職場の同僚です。職場に休みの連絡がきていなかったので、探しに来たのです」
女性は扉を大きく開いた。
「奥にいますので、どうぞお入りください」
彼女に促されるがままに、私たちは家の中に入っていった。
案内された寝室に向かい、女性がドアをそっと開けると、サミーが静かに寝息をたてて、目を閉じていた。
女性は音をたてないよう、静かに閉め、居間へと移動した。
彼女に私とグレンさんは椅子に座るよう促される。二人で並んで腰を下ろした。女性は台所にいくと、カップに紅茶を注ぎ、お菓子をお盆に乗せてから、戻ってきた。
「よかったら、どうぞ」
差し出された紅茶を飲み、一息つく。少し甘めの香りがする紅茶だった。カップを置くと、姿勢を正した。
「自己紹介が遅くなりました。私は魔法道具管理局のケイト、こちらはグレンと申します」
グレンさんが軽く頭を下げる。女性は表情を緩めた。
「初めまして、私はナミリィと言います。サミーさんのお知り合いの方に来ていただいて、ほっとしています。まずはサミーさんがベッドで寝ている経緯を説明しましょう」
ナミリィさんは紅茶を口につけてから、話し始めた。
「サミーさんは一昨日の夕方に訪問されて、私が捜索願いを出している姉のことを聞きに来ました。彼も姉のことを捜していると言っていまして。姉はふらっと家を離れることが多いのですが、たいていは行き先を告げてくれるので心配はしていなかったんです。ただ、今回は行き先も告げず、突然荷物だけ持っていなくなってしまい」
「お姉さんに関する情報は入ってきたのですか?」
ナミリィさんは首を横に振る。
「いいえ。でも、姉は優秀な魔法使いなので、事件に巻き込まれたということは考えにくいと思っています。どこかで見かけられて、その情報が得れればいいなと思い、新聞に載せてもらいました」
自己防衛もできるお姉さんということか。たしかにその面だけから見れば、心配はないだろう。
「サミーさんと話をし終えて、帰り際に呼吸がおかしいことに気づきました。話す前から、顔色はあまりよくなかった記憶があるので、早く気づけばよかったのですが……。熱を計ったら、高熱が出ていたため、家で休んでもらうことになったのです」
話を聞いていると、ナミリィさんは町の病院の看護師として働いているらしい。そのおかげでいち早くサミーの異常に気づいたのだろう。
私とグレンさんは深々と頭を下げた。
「大変ご迷惑をおかけしました。また、対応してくださり、ありがとうございました」
ナミリィさんは首と手を横に振る。
「いえいえ、サミーさんからも色々とお話が聞けてよかったです。それにもしかしたらこの家に来たから、体調を崩されたのではないかと思っていますし」
「え?」
「やはりそうでしたか……」
首を傾げる私とは裏腹に、グレンさんは納得した様子である。余計に意味がわからない。
ナミリィさんはうっすらと口元に笑みを浮かべた。そして両手を机の上に置いて、グレンさんを見た。
「貴方も魔法使いですか」
「ええ、まあ。この家は魔法関係で充満していますね。魔力を感じやすい人間や一般の人が来たら、間違いなく調子を崩すと思います」
「そうね、妙な人に来られても困るので、意図的に魔法を散りばめています」
私は首を傾げる。
話の流れからすると、この家では魔法使い以外は体調を崩しやすい? 私もサミーと同じ側の人間だと思うけど、特に体調に変化はありませんが?
ナミリィさんは私のことをにこにこした表情で見た。
「貴女は一般人のようだけれども、守られているから、問題はないと思います」
「守られて?」
「彼が一緒にいるおかげもあると思いますが、彼から何か贈り物とかされましたか?」
贈り物というか、お下がりでもらった本は携帯しています。
「図星そうね。それに保護の魔法でもかけられているのでしょう、だから魔法の影響を受けにくい状況になっていると思う」
グレンさんを見ると、頬をぽりぽりされながら、頷かれる。
「よほど大切にしたい女性なのね」
ナミリィさんが楽しそうにいうと、グレンさんは頬を赤らめて、間髪おかずに口を開く。
「後輩の彼女は仕事柄、魔法道具によく触れるので、それで変な魔力にでも当たったら困ると思っただけです!」
「保護の魔法なんて、なかなか難しいですよね? 後輩だからっていう、理由だけじゃ――」
「とにかく、サミーがこの家に来たのが理由で倒れたのであれば、ここを出れば、問題ないはずです。彼を起こして連れて帰ります」
グレンさんが話を切って、立ち上がる。そして部屋に向かおうとする彼をナミリィさんは横目でみる。
「――ビニールプールの事件の真相を知りに来たのでしょう? 聞いて行かなくていいの?」
グレンさんがドアノブに触れる直前で、手を止めた。
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