Day24 穴が空く(お題:ビニールプール)

 私が所属している道具認可課は、魔法道具を認可するまでが仕事で、認可後の話は他の課の仕事となっている。

 たまに雑談程度で、認可した道具の評判がいいんだよ、などの話はあるが、情報提供という、雑談よりも一段上の話は、私が経験する限り今回が初めてだった。


「同じ会社が作ったビニールプールが次々と壊れていく……」

 大手の新聞社の記事が出回っていた。この記事が出てからは、認可後に適切に運用しているか確認している課が、忙しく出払っていた。その関係で道具認可課にも話を伺いに来ていた。


「認可を出す時点で、落ち度はありませんでしたか? もしあったとわかれば、すぐに教えてください。認可課が見落として認可を出したがために、こんなことになっているとなれば、局の信用問題になりますから」

 認可後の課の女性課長が、道具認可課長に詰め寄っている。課長は首を縦に振った。

「わかりました。念のために認可を出したときの書類や経緯は丁寧に追ってみます。……だが、私は見落としというのはないと思う。職員は皆、しっかり仕事をしているのは、私が保証するよ」

「……今の課はよくても、昔いた課の人間が認可を出している可能性は高い。それだと貴方の言っていることは信用ならなくてよ」

「まったく君はいつも鋭いな。とにかく書類は見ておくから、なんなら持って行くから、少し待っていてくれ」

「よろしく頼むわよ」

 女性課長はヒールを鳴らしながら、部屋から出ていった。途中から口調が砕けていたので、二人は旧知の仲だったのだろう。

 そういうことで、道具認可課も慌ただしく動くことになった。


 書類は地下倉庫にあり、すぐに見つかった。

 審査内容を見る限り、課としての落ち度はなさそうだった。適切な書類、適切な順序を追って、認可が出ている。

 詳しく中身を見てみると、ビニールプールは水属性の魔法が込められており、水が減ったら空気中の水分を液体にして、プールの水を減らさないようにしているものだった。

 今回の事件では、ビニールプールの内側に穴が空いたという話だ。暑い日が続くようになり、子どもたちが使っている最中に、穴が突然空いたという連絡が入ってきたそうだ。


 説明書の通り使わなかった場合、穴が空く可能性はあるのか。

 何かの魔法が使われると、空いてしまう可能性があるのか。

 隣の課で検証を重ねながら、原因を究明していった。


 バタバタ動き回っていると、出張から戻ってきたグレンさんが課長に呼び出されていた。そして事件の応酬品として持ち帰ってきた、例のビニールプールを差し出されている。

「ここに込められている魔力から、何か感じ取れるか?」

「魔力がある程度残っていれば、多少感じることは可能でしょう」

 グレンさんが書類を眺めた後に、ビニールプールを丹念に上から撫でる。そして目をすっと細めた。

「少し違和感がしますね。何かの魔力が微かに残っているようです。さらに詳しく調べた方がよさそうです」

「わかった、伝えておく」

「……認可を出した人は、既におやめになっている、あの人ですか」

「そうだ。長く認可課にいた人間だ。あの人が見落とすわけがない」

「そうでしょう、魔法使いでしたしね。……そうなると魔法道具と魔法との組み合わせがうまく行かず、穴が生じた可能性はあります。それか――」

 グレンさんが一度口を閉じる。

 課長が軽く首を傾げ、「どうした、早く言ってみろ」と言うと、重い口を開いた。

「道具の作成者が、認可を出すときには問題がないように魔力を込め、その後何かのきっかけで穴が空くよう、意図的に魔力を切らせる何かを込めたか」

 私と課長は眉間にしわを寄せた。

「そんなことできるのか?」

「魔法合戦の最中に、魔力を切らせる魔法はあります。かなり高度な魔法ですが、優秀な魔法使いであればできると思います」

「そんなことをして何になる。ビニールプールに穴が空くことで、その者は利益があるのか? 企業としては、こんな問題のあるビニールプールが出回っているとなれば、信用ががた落ちだ」

 グレンさんは首を横に振る。

「なにが目的かは、その本人に聞かなければわかりません。自分たちは、ただ推測しかできません」

 グレンさんの言うとおりだ。

 この魔法道具に魔力を込めた魔法使いは、何人かいて、企業の方でも話を聞いているらしい。その中で事情を知っている人間が見つかればいいが――。


 淡い期待を抱いていたが、半ば予想通りというのか、企業に力を貸していた魔法使いは、皆、事情を知らない風だった。

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