Day19 約束と抜き打ち(お題:爆発)

 占い師の言葉が反芻し、翌日は少し仕事の手際が悪かった。サミーが目ざとく、どうしたんですか!? と聞いてくるので、少し夜更かししたのよっと、苦笑いしながら受け流していた。


 窓口業務を淡々とこなしながら、次に現場に行くための資料を揃える。

 明後日はサミーと一緒に、認可を出す予定の道具を現地で視察するのだ。

 書類での審査後、最終的に現地に行き、動きなどを確認する必要があった。この前の蟹の魔法道具は、審査が本格化する前に行ったが、たいていは審査がほとんど終了した後だった。

「特に問題がない代物だから、若手二人で大丈夫だろう」

 そういうわけで、私ケイトとサミーの二人で出張することになった。


 行きがけにある食堂で昼食をとって、現地へ向かう。値段以上に質も量も満足できるものだった。サミーもとても嬉しそうに食べていた。

 やがて目的地の三階建ての建物がうっすらと見えてくると、見慣れた青年と行きあった。

「グレン先輩?」

 先輩は認可を出した道具に問題がないか、定期的に現地に行って確認している担当に異動していた。たくさん現地に行っているのだろうか、以前見た時よりも作業着がいつもより汚れている気がした。

「ケイトとサミーか。二人で出かけているという事は、これから認可予定の道具でも見に行くのか?」

「はい、あの建物の会社に――」

 指さした方向にグレンは振り返る。先輩はそこを見るなり眉をひそめた。そして視線を戻すと、一歩詰め寄られる。

「あの会社は今、処分許可の連中が抜き打ちで立ち入りしている。訪問するなら、もう少し後にしてくれ」

「後にしてくれって言われましても、私たちは約束をとって、訪問します。遅刻するなんて失礼ですよ」

 余裕を持って行動しろと言ったのは、グレンさんじゃないか。

 若干ふてくされた表情をすると、先輩は首を横に振った。

「俺のせいにしていいから、何とか謝っておけ。だから今は行くな。……処分許可が抜き打ちで行くのは、珍しい事じゃないが、今回行っている人間が、課の上の役職の者もいるしい」

「それは珍しい顔ぶれですね」

 通常の立ち入りなら、ケイトやグレンなど、担当内で終わることがほとんどだ。それ以上の役職の人間が行くとなると、何か裏があるのではないかと勘くぐってしまう。

 サミーと視線を合わすと、彼には首を軽く傾げられた。彼も判断できないのだろう。

 どうしようと悩んでいる間に、刻々と約束の時間に近づいていく。

 グレンさんが真剣な目で見てくる。

 先輩の言う通り、ここはいったん――。


 その時、激しい爆発音が鳴り響き、地鳴りがした。視線を上げると、私たちが行こうとしていた建物から、黒煙が上がっていた。私は目を大きく見開いた。サミーも驚きを露わにしている。

 グレンさんだけが、すぐに表情を引き締めていた。

「ケイトとサミーはここで待っているか、局に戻っていろ。俺が様子を見てくる」

「わ、私も行きます!」

 反射的に答えると、グレンさんの眉間にさらにしわが寄っていた。

「危険だ。待っていろ」

「もし、私たちが認可しようとしていた道具が原因だったら……、道具の認可は下ろせません。それを直接確かめさせてください」

 グレンさんをじっと見つめる。やがて根負けしたのか、何も言わずに背を向けられた。

「来てもいいが、何があっても取り乱すなよ」

「わかりました」

 即答し、走り出したグレンさんの後を追いかけていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る