Day20 酷い有様(お題:甘くない)
グレンさんと約束したことを破らないために、自分自身が取り乱さないよう抑えるので必死だった。
目の前では多くの人が担架に乗せられて、救急車で運ばれていった。血を流している者、火傷を負ってうめき声を発している者、そして動かない者――など、酷い有様だった。
背景には爆発した建物から、黒煙が延々と空に上っている。一炎は建物を一部包み込んでいた。その炎を消そうと、消防隊や水の魔法が使える人間たちが、必死に水を放出していた。
あまりの光景に、グレンさんも声を失っていた。サミーの意見を聞かずに連れてきてしまったが、彼も同様に愕然としている。
「グレンさん、俺たちは何かした方がいいんですか?」
サミーが意見を仰いでくる。私よりもサミーの方が、落ち着いているようだ。
まず、グレンさんは移動しようと促す。道の脇に寄ると、そこを救急車がサイレンを鳴らしながら、去っていった。
「正直に言って、認可を出すだけの俺たちができることは、他の一般人と同じように何もない。情報収集と言いたいが、おそらく処分許可の人間たちが仕入れてくるだろうから、下手に動かない方がいいだろう」
黒煙を見たとき、自分が何かできるかと思い、私はグレンさんのあとをついて行った。
だが、現実はそう甘くない。
ただの正義心だけで、何かができるわけがない。
私はぎゅっと手を握りしめた。
そういえば――と、グレンさんを見上げた。
「なぜ、グレンさんはあそこにいたんですか? これからどこか現場に向かう予定だったのですか?」
「俺もここに来る予定だった。時間はもう少しあとの予定だが。処分許可の現場部隊から連絡があって、認可が下りていない魔法道具を使って、処分をしている疑いがあるから、確認して欲しいと言われた」
「自分たちだけで使う道具は、認可が必須ではないと思うのですが。認可が必要なのは売り出す時だけです」
「その通りだ。必ずしも認可をとる必要はないが、処分の方で許可を取るためには、その道具の内容を書類に盛り込まないといけない。処分許可の人間から、以前の立ち入り時に見慣れない道具があり、あとで調べてみたら、認可が下りていない道具とわかったようだ」
「その確認に、グレンさんが……」
「ああ。俺も早めにここに到着していたら、被害にあっていたかもしれないな」
グレンさんはさらっと言ったが、それを聞いた私は血の気が引いていた。もし、グレンさんがいなくなったら――
その時、誰かが手を大きく振りながら、私たちの方に駆け寄ってきた。
あの男性は何度か顔を見たことがある。たしか、処分許可の現場部隊のジェイド先輩ではないだろうか。顔や服はすすだらけ、軽やかに走っているところから怪我は負っていないようだが、姿だけみれば酷いものである。
「おーい、グレンはここにいたか! その様子だと、爆発に巻き込まれていないな」
「ジェイド、お前は大丈夫か?」
「俺は大丈夫。爆発があった後、中をほんの少しだけ探していたら、少し煤を被っただけだ。……課長たちが爆発に巻き込まれた」
私たち三人はごくりとつばを飲み込んだ。ジェイド先輩は私たちの表情を見て察したのか、顔を和らげた。
「安心しろ、軽傷な方だ。念のために病院に行っている。局の人間たちに重傷者はいないようだ」
「そうか、ならよかった。他は?」
「処分場の人間たちが、何人かまともに爆風をくらったらしい。正直、命の危険もある人もいるっていう話だ。……認可が下りていない道具を使って処分していたから、いつかこんなことが起きるとは思っていたが……」
ジェイド先輩はぎりっと歯を噛みしめる。止められなかったことが悔しいのだろう。
私たちとしても、魔法道具で事故が起きるのは、非常に残念だ。
「処分関係の魔法道具でこの有様だ。他にも認可が下りていない道具を作ったり、使ったりしているらしい」
「私たちは認可を出す予定の道具を見に来たのですが……」
この事業所自体が悪いとは思いたくなかった。認可がでている道具が絶対に安全とは言い切れないが、出ている方が様々な審査を経て世に出ているため、比較すれば安心な道具ということでもあった。
「それなら行かなくてよかったな。認可を出す道具がまともでも、それ以外がまともでなかったら、事故が起きてもおかしくない。よかったな、巻き込まれなくて」
結果論だが、その通りだった。
もしグレンさんに会わなければ、もしここに早く来ていれば、もしあの爆発がもっとあとに起きていれば――自分たちもあの救急車の中にいたかもしれない。
現場に来るということは、実は危険と隣り合わせであったという事を痛感する出来事となった。
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