Day14 期待(お題:お下がり)

 グレンさんが持ってきた魔法道具を置いた後に、自由時間をもらい、一人で色々な道具を見て回った。

 流しそうめんでも取り入れていた、連続して魔法を出し続ける道具は他にもあった。

 魔法道具は消耗品が大多数だが、この連続して魔法を出す道具に関しては、半永久的に使える代物だった。いくつか店で見たことはあるが、どれも高額なものばかりだった記憶がある。

 道具の中に魔力を循環させるというのは、時間も労力もかかるため、それに見合った値段になるのだろう。


 大きなぬいぐるみが飾られている場所もあった。

 犬のぬいぐるみに土属性の魔力がこめられており、自由に動けるぬいぐるみのようだった。生き物ではないが、まるで生きているかのように見える物のため、高額ではあるが、それなりに市場に出回っているようだ。


 見るものすべてが、刺激的なものばかり。学ぶべき点も多く、頭の中の整理が追いつかなくなりそうだ。


 集合時間まで少しあるが、歩き回って疲れたため、早めにベンチに腰をかける。光が差し込む天井を見上げながら、ふうっと息を吐きだした。

 するとちょうどグレンさんがやってきた。先輩は私と視線が合うと、口を開いた。

「もういいのか?」

「はい。きりのいいところで戻ってきました」

 グレンさんは移動し、私の目の前に来ると、リュックの中から一冊の本を取りだし、渡してきた。

「ケイト、これをよかったら、使って欲しい。お下がりでよければ」

 グレンさんから渡されたのは、先輩が道具の審査をする際に、よく使っている参考書だ。付箋がたくさん貼られ、表紙も少しくたびれていた。

 不思議に思いながら、参考書を手に取る。中を開けば、先輩の書き込みがたくさんあった。

「どうして、これを?」

 昨日もグレンさんは使っていたはずだ。これからも審査をしていくならば、使う本であろう。

 首を傾げていると、グレンさんは私の隣に座り込んだ。そして息を深く吐き出す。

「来週から一時的に担当から離れることになった」

「え?」

 グレンさんは手を握りしめながら、話を続ける。

「といっても、隣の現場中心の担当に行くだけだ。会おうと思えばすぐに会える」

「突然ですね」

「――本当は前から打診はあったが、もう少し皆の審査能力の水準が上がってから……と思っていたら、数年過ぎてしまった。上を目指すなら、積極的に現場を見ろと強く言われているから、さすがに行ってくる」

 正直に言って、グレンさんが審査から外れるのは、担当内では大きな衝撃だろう。私もやっていけるか不安だ。でも、先輩の将来を考えれば、その言葉を出してはいけない。

 グレンさんが顔を私の方に向ける。

「だから、その本は審査担当にいる、ケイトに使って欲しい。俺が経験したこと、学んだことをたくさん書き込んでいる。困ったときに、おそらく役に立つはずだ」

「そうですね、ぱっと見ただけでも、書き込みの量が半端ないですね。絶対に参考になります」

 グレンさんは手を緩ませて、膝の上に乗せた。

「ケイトはきっといい審査官になる。だから……頑張って欲しい」

 思わぬ言葉を出され、目を大きく見開く。嬉しさと不安が入り交じるが、私は大きな声で返事をした。

「はい、頑張ります。これ、大切に読みますね! ありがとうございます!」

 参考書を両手で大切に抱きしめた。固くなっていたグレンさんの表情は綻ぶ。先輩は立ち上がり、ぽんっと私の頭の上に手を乗せた。

「期待している。俺が戻ってくるまでに一回りも二回りも成長してこい」

「……はい」

 頭の上に大きな手が乗せられると、どこか心地よかった。


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