Day5 本物(お題:蛍)
「わあ、綺麗なところ! こんなに蛍を見るなんて初めて! ケイト、よくこんな場所を知っていたね」
私は運搬審査課で働いている同期のアリッサと共に、蛍がたくさんいる水辺の近くに遊びに来ていた。
至る所で光が動き回っている。蛍がたくさんいる証拠だ。
「この前、事業者と話をしているとき、蛍の話題になって、ここを教えてくれたの」
蛍の光の発し方を参考にしながら、道具を製作している事業者だった。
ここは局から比較的近いが、意外と穴場らしく、観光地にはなっていない場所だ。だから、思ったよりも人は多くない。
アリッサは蛍を目で追っていく。
「蛍を元にした魔法道具は多いけど、本物とはまた違う気がする」
「そうね。蛍の光を元にした道具って、色味的に光属性が近いと思うけど、現実問題、火属性で作っているのよ。だから色に違いもでてくるし、暖かみも違うみたい」
「そうなんだ。処分の方しかやっていないから、そういう所わからないのよね」
アリッサと二人で他愛もない話をしながら、歩いていく。女二人で歩いている組み合わせは、時々いるが、だいたいが男女二人組だ。
アリッサは声を潜めて、聞いてくる。
「ねえ、こういうところって、デートで来るところじゃない?」
「否定しない……」
「ケイトは一緒に行くような男性、いないの?」
まさかの話題の振られ方に、へっ? と間抜けな声を上げる。同時に脳裏にこの前助けてもらった青年の背中がよみがえる。
アリッサは口元をにやっとさせた。
「その沈黙、行く人はいないけど、気になっている人はいる感じね?」
「何でそうなるの!? アリッサだって、いないの? ほら、よく話題に出す後輩君とか!」
アリッサは涼しい顔をして、視線を正面に向ける。
「後輩君、頼りになるよ。それは否定しない。もし私がケイトだったら、ここに女友達ではなく、彼を連れて来るかもしれない」
さらりと言われ、衝撃を受けた。恋や男女の関係には疎い、同類かと思ったのに……!
「……なんて嘘だよ、ケイト」
「へ?」
アリッサはケイトの頬をつついてくる。
「なんか今日のケイト、少し上の空だったから、気になる人でも考えているのかなって思っただけ。何かあったら、話してね」
たしかに今日はこの前の脚立事件のことが、頭の中を何度か巡っていた。体を張って助けてくれた男性のことが。本当に怪我はしなかったのか、変なところ打っていないかなど、気になっていた。今日も特に問題なく過ごしていたので、おそらく大丈夫だとは思われる。
私が軽く相槌を打つと、ケイトはうんうんと頷いていた。そして彼女に引っ張られて、さらにたくさんの蛍がいる場所へと移動していった。
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