♪ Take21 事後処理の手伝い

 アフレコから四か月が経過した、四月上旬。


 少年ガーディアンの編集部には、汗を流しせっせと作業に励む歩と藤枝の二人の姿があった。


 一枚一枚原稿に目を通す藤枝は歩に向かって、いつにもなく不機嫌な顔をしてこう言った。


「確かに牧野を輪久に仕立てあげろとは言ったが、俺は丹波に声優をやれなんて一言も言ってねぇ。第一、陣内明日菜の尻拭いを何で俺がしねぇといけねぇんだ」と藤枝は歩に文句を言う。


 あの後、編集部に抗議文を送りつけた明日菜だったが、藤枝と久石の計らいで穏便にことが済んだと歩は聞かされた。


「一体どんなことをして陣内さんを黙らせたんですか?」と歩が尋ねると、藤枝は「聞きてぇか?」と笑い、久石は「聞かない方が良い」とボソリと呟いた。


 歩は「これはパンドラの匣だ」と本能で察知して、今後一切その話題には触れなかった。


 約四か月前のアフレコの風景を思い出し、感慨に耽り作業の手を止める歩に対して、藤枝は激しく怒鳴り散らす。


「事後処理の手伝いはするって約束だろうが。さっさと働け、この給料泥棒。丹波が声優なんて面倒臭いことをやっちまったせいで、こっちは猫の手も借りたいくらい、急がしいんだからな」




 一部の読者から反感は買ったものの、『Link of Ring』 のドラマCDは大成功を収める。


 最初エロゲで活動している声優ということで、周囲から叩かれたひとみだったが、高い演技力と表現力で演じた輪久が当たり役となり、活躍の場を大きく広げた。


 また人気少年漫画家・丹波凛が声優デビューをし、しかもその正体が女性だったことは、世間の大きな注目を浴びることとなった。


(本人は「私は女であることを別に隠してはいないし、皆が勝手に勘違いをしていただけなのだが」と後に語る)


 話題をさらった『Link of Ring』はCD、漫画ともに売り上げを伸ばす。

 既刊本の重版も決まり、編集部はにわかに慌ただしくなった。


 また素人ながらも立派にケイシーを演じきった凛の元には、本業以外の声優の仕事の依頼も来るようになり、漫画の読者からだけではなく声優ファンからもファンレターが届くようになった。

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