♪ Take17 お願い♡

 三人が現場である都内の収録スタジオに入ると、挨拶もそこそこに、すぐさまスタッフとキャストの顔合わせが行われた。


「輪久役の牧野ひとみです。皆さん宜しくお願い致します!」


 ひとみが頬を赤く染めて自己紹介をした、その時だった。


「やだぁ。先輩から『宜しく』だなんて。明日菜は絶対にされたくないなぁ」


 驚いてひとみが振り返ると、そこには、清楚なパステルグリーンのワンピ―スに身を包み、ピンクのネイルの爪を終始弄って笑う、明日菜の姿があった。


「陣内さん、おはようございます」とめげずに挨拶をして丁寧にお辞儀をするひとみを無視して、明日菜はスタスタと部屋の奥に居る久石の方へと駆け寄る。


 久石の姿を捕らえると、今度はひとみに掛けた声とは打って変わった甘い声で、明日菜が久石に声を掛けた。


「おはようございまぁす。久石さん、今日は宜しくお願いします。久石さんにお願いがあるんですけれどぉ」


 その明日菜の申し出に対して久石が「何だい?陣内さん?」と少々戸惑いながら、声を掛ける。


 すると明日菜は現場を大きくかき乱す、爆弾のような言葉を投下した。


「明日菜を輪久にして欲しいんですっ!」


 騒然とする現場の不穏な空気と、困惑する一同の気持ちを汲み取った久石は明日菜に、「それはできない」と詳しく事情を説明する。


「えぇ!?何でですかぁ。年を取ったおばさんの先輩よりも、若くて綺麗で将来性のある明日菜の方が輪久にピッタリだと思うんですけれどぉ」と言い、明日菜は久石の言葉を全く聞き入れない。


「輪久にしてくれなきゃ、明日菜はもう帰りますっ!」と言う明日菜の我儘は益々エスカレートしていく。


 現場の雰囲気が悪化していることを感じ取った久石は、明日菜を暫く別室に移動させようとした。

 だが明日菜は自分の主張を決して曲げずに現場に留まった。


 すると意を決した歩が皆の気持ちを代弁してこう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る