♪ Take14 もう一度!
「ひとみさん!」
ひとみに追い付くと、咄嗟に歩はひとみの左腕を掴んだ。そしてゆっくりと歩はひとみの顔を覗き込む。
するとそこには大粒の涙を流すひとみの姿があった。
自身の涙に気付いたひとみは「公衆の面前で大の大人が泣くなんて恥ずかしいですよね。……歩さん、ごめんなさい」と声を絞り出す。
「謝ることはないですし、恥ずかしいとも俺は思いません」
キッパリと断言する歩の言葉に驚いたひとみが、またポロッと大粒の涙を一つ零した。
「久石さんはすごいですね。全部見透かされていました」
一人言のようにひとみは静かに語る。その告白を聞き漏らさないように歩は静かにひとみの言葉に耳を傾けた。
「このチャンスを逃したくなくて、私は輪久の気持ちより自分の気持ちを優先させました。『絶対に失敗したくない』という気持ちで輪久を演じていたんです。輪久は感受性が豊かで、熱い心を持った少年です。……自分のエゴのためにキャラクターの気持ちを押し殺してしまうなんて私は役者失格です」
そのひとみの言葉に歩が反論をする。
「ひとみさんが役者失格だなんて俺は思いません!エゴを持たない人間なんて居ないんですから。ただそのエゴを、キャラクターを殺す力にするのではなく活かす力に変えれば良い」
ひとみの心に届くようにと、歩は必死に自分の思いをひとみに向かって口にする。
「ダメだしをされたのならば直せば良い。自分が納得出来ないのならば正せば良い。ひとみさんはそれが出来る人間です。そんなひとみさんが素敵だから、俺は今、全力でひとみさんをサポートしているんだ」
歩はひとみに近づき渾身の力を込めてこう言葉を紡いだ。
「だから、ひとみさん。もう一度輪久に息を吹き込んでみませんか?」
その言葉にハッとしたひとみは、泣くことを止めて歩の方をしっかりと見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます