♪ Take11 嬉しい悲鳴
「へぇ。結局ひとみちゃんが主人公の輪久で、陣内さんが輪久の相棒のケイシーをすることになったんだな」
連日、懸命に
昨日の夕方、凛の原稿を無事に入稿した歩は、凛との約束の日から仕事の合間を縫って、ひとみの台本の読み合わせの練習相手をしている。
「仕事がひと段落して暇なんだ。私にも何か手伝わせてくれ」
そう言ってベッドの上で大きく伸びをする凛は、自身の病室で熱心に練習をする三人を、咎めるどころか、寧ろ協力的に見守っていた。
「あ!それなら凛先生にお願いがありまして……。ここのケイシーの台詞を読んで頂けますか?」
「男の方だとニュアンスが違う気がして」と呟くひとみに、「君は本当に研究熱心だな、牧野君」と凛が感嘆の声を上げる。
「自分の作品を丹念に読んでくれる読者が居るということは、作者としてこんなに嬉しいことはない」と胸に手を当て感動している凛に対して、「本当に嬉しいですよね」と歩も明るく答える。
「君も嬉しいのか?十条君」
歩の方を見て質問をする凛に、歩は「そうですよ!」と益々声を張り上げて答えた。
「丹波先生の漫画を褒めて頂けると、俺は自分のことのように嬉しいです!」
満面の笑みでそう答える歩に、凛は「ありがとう、十条君」といつもより小声で返答した。
「私は本当に幸せ者だ。これで思い残すことは何も無い」
いささか物騒な言葉を呟く凛に、他の三人が次々に声を掛けた。
「凛先生、何、縁起でもないことを仰っているんですか!」
「俺達、皆、頑張っていますから。そんなこと言わないでアフレコ当日を楽しみにしていてくださいよ」
「アフレコ当日までには丹波先生、退院出来ますよね?」
そう質問を投げかける歩に「うむ。その予定だ」と凛が簡潔に返事をする。
「私はもう自由に動き回れるのだから、早く退院したいのだが。ここの医者は用心深くていけないな」
そう言うと凛は、深く溜め息を付く。
「それだけ休みなさいってことですよ、丹波先生。ひとみちゃんもそう思うでしょ?」
「はい。先生は頑張り過ぎです。偶には息抜きもしないと!」
「それはひとみさんも、ですよ。練習も大切ですが、少しは休憩を取ってください」
そう言って皆に、水と昼食のサンドイッチを手渡そうとする歩に、「私も配るのを手伝います」と言ってひとみが駆け寄る。
すると二人の顔の距離が30センチメートルほどに一気に縮まって、歩は心の中で「うわ!」と嬉しい悲鳴を上げるのだった。
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