♪ Take9 その思いは本物か?
「何だ、騒がしい」
「藤枝編集長!?」
大量の本が入った重たい紙袋を両手に下げて、突然四人の居る病室を訪れた藤枝は、持っていた紙袋を強引に凛に手渡した。
「お前が欲しがっていた資料だ。受け取れ」と藤枝は凛に素っ気なく告げる。
そして病室にいるひとみの姿に気が付くと、藤枝は益々嫌な顔をして、ひとみに向かって容赦ない言葉を浴びせた。
「なんだ、牧野じゃねぇか。本業をさぼって丹波のご機嫌取りとは立派な身分だな。それで役を買おうだなんて、したたかな女じゃねぇか。丹波が男ならお前、枕営業でもしてたんじゃねぇか?」
藤枝の暴言にカッとなって一歩前に出た歩を、順平が制止する。
酷くひとみを威嚇する藤枝に対し、ひとみはにこやかに、さらっとこう言い返した。
「残念です。それで役を頂けるのでしたら、私はそうしています。ですが私が生きる世界は、そんなことで役を頂けるほど甘くはないんです」
その言葉に呆気に取られた藤枝は次第に肩を震わせ、そして吹き出し「ははははは!」と笑い出した。
藤枝の様子に驚く一同だったが、藤枝の高らかな笑い声は中々収まらない。
「藤枝編集長?」と呟いた歩は、普段決して声を上げて笑わない藤枝に驚きながら恐る恐る近付く。
目に涙を溜めて腹を抱えて笑う藤枝は、「あぁ、面白れぇ」とひとみを一目見ながら呟いた。
すると何かを思い付いたのか、はたと笑うのを止めると、藤枝は歩に向き直って「十条!」と叫んだ。
「十条!お前、牧野を輪久にしたいという思い。その思いは本物か?」
じろりと歩を睨む藤枝に臆することなく、歩は間髪入れずに反論をする。
「本物ですよ!そうでなかったら、こんなに何度も藤枝編集長に直談判したりしません!」
するとこの光景を黙って見ていたひとみに藤枝はチラリと目をやる。
そしてもう一度歩に向き直ると、藤枝はにやりと笑ってこう言った。
「十条。お前、その言葉が本物ならば、この女を輪久に仕立てあげてみろ」
歩はその言葉に目を見開く。
驚く歩に藤枝は「ただしCDが出た後の面倒くせぇ事後処理はお前も手伝え。良いな?」と言い、再度にやりと笑った。
「まぁ、精々頑張るんだな」と一言付け加えると藤枝は、呆然とする歩を置いて凛の病室からスタスタと出て行った。
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