♪ Take6 今から君は

「心配を掛けてすまなかったな。十条君」

「すみません、丹波先生。ドラマCD化の企画が持ち上がってから、丹波先生の仕事量を増やした、俺がいけないんです」

「何、君のせいではないから気にするな、十条君」


 口調はいつもと変わらないが、いつもよりも凛の顔が蒼いことに気が付くと、歩は酷く自分を責めた。


「先生の過労に全然気が付きませんでした。先生、本当にすみません」

 

 そう何度も口にする歩に、ふと何かを思いついた凛が、この上なく落ち着いた声でこう言った。


「十条君。申し訳ない気持ちがあるのなら、君に一つ頼みがあるのだが聞いてくれるか?」

「……何ですか?」


 嫌な予感がして凛を警戒する歩に対して、凛は軽快な声で歩に話し掛けた。


「私の仕事場から仕事道具を取ってきて貰えないだろうか?」

「こんな状態でもまだ描く気ですか!?」


「『暫く安静にするように』とさっき医者から言われたでしょう!?」と歩は悲鳴にも似た声を上げる。


 血相を変えて反論する歩に対して、凛は落ち着いた声でこう答えた。


「こんなときでも、だ。十条君。私の漫画は子供達を対象としている。私が原稿を落とすことは簡単だが、それでは私の漫画を楽しみにしている子供達を落胆させてしまう」

「……」

「私はそんな子供達の姿は見たくないし、させたくない。解って貰えるだろうか?」


 いつもは飄々ひょうひょうとしている凛の、いつにもない真剣な姿に歩の心は打たれる。


 暫く自問自答をしていた歩だったが、決心が付くと、ゆっくりとその重たい口を開いた。


「解りました。丹波先生。ただし一つ条件があります」

「条件?」


 珍しく驚いた目をする凛に向かって歩は静かにこう告げた。


「はい。丹波先生が入院している間、俺を丹波先生のアシスタントとして扱ってください。そして漫画のお手伝いをさせてください」


 歩の言葉に益々驚いた目をする凛だったが、歩のその気迫に圧倒される。

 そして手短に一言「解った」と言うと、凛は歩に向き直り、こう宣言した。


「今から君は私のアシスタントだ、十条君。これから馬車馬のように働いて貰うから覚悟するように」


 凛のその言葉に、歩は満面の笑みを見せた。

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