♪ Take5 一番見たい姿
「で?お前はどうしてそんなに暗いんだ?」
そう言って固い表情を一切変えずに、物思いに耽る歩に順平が声を掛ける。
ふーっと溜め息を付くと歩は順平の顔を向いてこう言った。
「そりゃそうだろう。自分が推薦した声優が降板になったんだから。これでキャストの案を練り直さなくちゃいけなくなった。おかげで仕事が増えたよ」
「仕事が増えた、ねぇ。なぁ歩。俺はどうもそれだけじゃない気がするんだが?」
「……」
「お前がそんなに凹んでいるのは、もっと別の理由があるからじゃないか?」
順平に図星をつかれ、歩は益々深い溜め息を付く。
「……そりゃそうだろう?俺がひとみさんに、あんな顔をさせてしまったんだから」
ぎゅっと拳に力をいれる歩に順平は目をやる。
「俺が編集部に何が何でもひとみさんの起用を推さなきゃいけなかったんだ。本当に今、後悔しているよ。……だってな、順平。俺が一番輪久に息を吹き込むひとみさんの姿を見たかったんだ」
遠い目をする歩に順平が声をかけようとしたその時、藤枝から一本の電話が入った。
「十条!お前、今、何処にいる!?」
「藤枝編集長!?何ですか?『今日はもう用無しだ、帰れ』と言って俺を帰らせたのは、藤枝編集長でしょう!?」
「前言撤回だ!お前、今から急いで中央私立病院に来い!」
「びょ、病院!?」
「丹波の奴が突然、倒れやがったんだ。つべこべ言わず、お前もさっさと病院に来やがれ!」
「解ったな!?」と捨て台詞を吐くと藤枝は、乱暴に歩に繋いでいた電話を切った。
仕事中の順平に取り急ぎ別れを告げると、歩は急いで凛が救急車で運ばれた病院へと向かった。
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