♪ Take4 何で?

「お前も本当に損な役回りだな、歩」


 仕事帰りにエロゲショップ『Honey Finger』に立ち寄った歩は大学時代からの友人である内野順平うちのじゅんぺいに同情された。


「丹波先生の後押しもあって、輪久役はほぼ、ひとみちゃんに決まっていたんだろう?それが突然、ひとみちゃんがエロゲ声優だって分かった途端に降板だもんなぁ。何かやるせないよなぁ」


 箱から新商品のエロゲを取り出し陳列しながら順平は歩に話しかける。


「何でエロゲ声優ってだけであんなに酷い目に遭うんだろうな?」

「そりゃあ、やっぱりイメージってもんがあるからだろう?」

「ひとみさんにはずば抜けた演技力と表現力があるし、何より人を魅了する力がある。皆、誤解しているけれど、ひとみさんは本当に素晴らしい声優なんだよ……」


 思いっきり愚痴を溢す歩に順平は「お前みたいな男ばかりじゃないってことさ」と残念そうな声を漏らす。


「で?ひとみちゃんの穴は一体誰が埋めるんだ?」

陣内明日菜じんないあすなっていう今、人気急上昇中の女子高生アイドル声優だよ」

「マジか。陣内明日菜って超清純派で売り出している声優だろう?少年ガーディアン編集部も随分路線を変えてきたな」


 商品棚を整理しながら順平は答える。

 

「何でもひとみさんの事務所の後輩らしい。ひとみさんの降板が決まった途端、事務所のスタッフが陣内明日菜を連れてうちに売り込みに来た。藤枝編集長は『面倒くせぇから後は全部お前が対応しろ』だと」

「うわぁ。本当に恐い世界だな。一人降板したら、そこの枠を狙って別の売り込みが来るのかよ?」

「声優業界って生き残りに皆、必死だからな」


「恐い恐い」と言いながら今度は店内ポップを飾り始める順平は、歩の表情がどんどん固くなるのを感じ取った。



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