♪ Take3 出ていけ!

 少年ガーディアン編集部に凛の原稿を持って、走って帰ってきた歩は帰社早々、編集長の藤枝隆臣ふじえだたかおみから嫌みを言われた。


「牧野に断りの返事をして、丹波から原稿を取りにいくだけなのに、随分遅いじゃねぇか、えぇ!?」


 ぜぇぜぇと肩で息をする歩は呼吸を整えると、藤枝の瞳を見てこう願い出た。


「藤枝編集長!ひとみさんを輪久役に起用することを、もう一度検討して貰えませんか?」

 

「チッ」と舌打ちをした藤枝は、「それは無理な相談だ」と歩の願いを一蹴する。


「最初は納得してくれたじゃないですか!?どうしてひとみさんじゃ駄目なんですか!?」

「それはお前が俺に、牧野がエロゲ声優だってことを一言も言わなかったからだ!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」


 編集部に偶然打ち合わせに来ていた、今回のドラマCDのプロデューサー、久石巧ひさいしたくみがいがみ合う二人を制止する。

 

 しかし二人の口論は激しさを増していく。


「藤枝編集長は肩書きで人を判断するなんて、どうかしていますよ!」

「どうかしているだぁ!?採用面接のときに『御社を志望したのは声優が大好きで声優雑誌の編集部に入りたいからです』と、バカ正直に答えたお前にだけは絶対に言われたくねぇ!」

「俺の話なんて関係ないでしょう!?」

「あぁ?何だって?俺にたてつく気かよ。やるか、こらぁ!」

「二人とも落ち着いて」

「久石!止めるな!」


 久石の制止を振り切って歩の前に出ると、藤枝はその見た目とは打って変わって握力のある腕で、歩の身体を捕まえると、編集部の入り口の方へと無理矢理、歩を引きずって行った。


「十条、お前、今すぐここから出ていけ!そして一時帰って来んな!」


 そう藤枝から言葉を浴びせられると、歩は藤枝から力づくに編集部から追い出されてしまった。


「大丈夫かい?藤枝も相変わらず本当に乱暴者だな。君も可哀想な男だね、歩君」


 心配して編集室から追いかけて来てくれた久石に慰められ、歩はひどく泣きたくなった。

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