第3話 作戦本部

北緯59度14分14秒 東経25度57分1秒 エストニア タパ航空基地


NATO指揮下のエストニア空軍中尉レオ・リシャールはその日の勤務を終えて帰ろうとしていた。


彼はエストニア空軍の中でも数少ないパイロットだがそもそもエストニアは本格的な作戦機は存在しないため実質的にはNATOに所属している。とはいっても祖国防衛の意識はとても強く万が一のことがあったら命を捨てることさえいとわない。


そんな彼は今日が妻の誕生日ということもあって普段よりも早く帰ろうとしている。上官からの昇格祝いといった側面もあってその日は早く帰れることを許されたのだ。


そして彼が車に乗ろうとしたとき基地内放送が鳴り始めた。


「緊急、緊急、至急モロー中佐とリシャール中尉は作戦本部までお越しください。繰り返します。至急モロー中佐とリシャール中尉は作戦本部までお越しください」


リシャールとしては帰りたかったが緊急事態ならしょうがない。この埋め合わせは今度しよう、と考えリシャールは作戦本部に向かった。




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作戦本部に向かうとそこには苦々しい顔をしたルロワ司令官と彼の直属の上官であるモロー中佐がいた。


「集まったか。それなら今回の任務を伝えよう。今回の任務は占拠された原子力発電所の偵察だ」


「占拠された原子力発電所ですか?具体的な場所はどこです?」


「場所はフィンランドのオルキルオト原子力発電所だ。これをNATOは加盟国の重大な危機として認め、NATO軍を派遣することになった。それで選ばれたのが君たちというわけだな」


「それならば無人機でもよくないですか?」


「今回、そこを占拠したテロリストは対空砲なんかも持ち込んでいることが確認できた。もし原発上空で撃墜され原発に墜落したら大惨事だ。そこで撃墜されないよう人間のパイロットが使われるということだそうだ」


「了解です」


「それと今回の作戦はフィンランドのティッカコスキ航空基地で行われる。準備ができ次第向かってくれ。輸送機はすでに手配している」


「了解」


2人は声をそろえて作戦本部から退出した。


「それにしてもレオ、不運だったな。今日奥さんの誕生日なんだろう?」


「そうですね。できることなら一緒に過ごしたかったですけど、任務ならばしょうがないです。それに妻もわかってくれるはずですよ」


「そうか、まぁこの埋め合わせは今回の任務が終わったしてやれ。俺からも長期の休暇がとれるように上に言っておく」


「ありがとうございます」


2人は談笑しながらも手早く荷物を積めると輸送機に乗り込んだ。

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