第2話 事の発端
北緯61度14分13秒 東経21度26分27秒 フィンランド オルキルオト原子力発電所
2028年6月28日、オルキルオト原子力発電所ではその日も何事もなく終わろうとしていた。原子力発電所職員であるラーシュ・アンデションはこの後どこで髪を切るかということを考えている。
なにせ今日は3か月に一回の理髪店なのだ。髪に命を懸けているラーシュとしてはこの日が心から待ち遠しかった。
「おい、ラーシュ髪を切ることが楽しみなのはわかるがせめて作業に集中しろ」
彼に苦言を呈しているのは同じく原発職員であるヨハン・エリクソンだ。彼はラーシュの同僚であり親友である。
そんな彼はあきれているような口調でいう。彼としてはすでに何回も髪型のことを相談されているのだ。ため息がつきたくなる気持ちもわかるだろう。
「そんなこと言うなよ。今日は待ちに待った日なんだ。少しぐらい浮かれてもいいじゃないか」
「少しならな。今日のお前の浮かれ具合は尋常じゃない。昼食の時にやらかしたことをすでに忘れたのか?」
「…あれは反省しているよ。さすがにあれは自分としても冷静さが欠如した行動だったと思う」
「そう思うのならあと少しぐらい集中して作業をしてくれ」
「わかったよ」
彼らの仕事は原発の制御だ。とはいっても現在、ほとんどの行為を機械が自動でやってくれることもあって緊急事態が起きない限り彼らが特別に働く必要はない。
「ここで何ががあったら俺たちはもちろんフィンランド南部が放射能の危機に陥るんだぞ」
「わかってるって。そのために俺たちが配備されているんだろう。それにしてもここは静かでいいな。老後にはここで住もうかな」
「そうだな。確かにいい島だが原発があるからな。俺としては老後くらい原発から離れて生活したものだ」
「それもそうだな。俺たちだってもう10年もここで働いているわけだ。そろそろヘルシンキに異動にしてくれないかな?さすがに10年も都会から離れていると都会が恋しくなってきた」
「さっき言ってたことと矛盾していないか?俺は確かに老後はここで住みたいと聞こえたはずなんだが」
「それは老後の話だろう。やっぱり若いうちは都会で生活したいんだよ」
「まぁ、わからんでもない」
その時原発内にけたたましいサイレンの音が聞こえた。
2人は制御盤に駆け寄る。
「なんだ、どこで異常でも起きたのか?」
「いや、制御盤にはどこにも異常はない。そうなると…外部からの襲撃か?とりあえず原発の運転を停止。避難用のシェルターに異動するぞ」
2028年のフィンランドでは電力は常に過剰供給気味になっており異常事態ならば現場の監督者が独自に止めることができるようになっていた。
そして2人はオルキルオト原子力発電所内の避難シェルターに走って向かっていく。
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