第4話

なんだっけ…。

名前…。

私の事を呼ぶ、あのヒト。

年下なのに、凄くしっかりしてて。

いつも1人で本を読んでる。


「…じ」

じ?

「藤」

藤…

あー、これから時期だよね。

今年も、見に行かなきゃ。

自分だけの秘密の場所。


「藤」

(誰?)

「起きなくていいのか?」

(起きる?)

「姉上がお見えになる」

(姉上?)

(私に姉はいないけどな)

(くっそ生意気な妹はいるけど)

「藤!!!」

叫ばれて、ビクッ!とする。

ゆっくり目を開けると、美人さんが私を覗き込んでいて驚いた。

「桜…」

(へー、この美人さん桜っていうの)

まじまじと見ていると、鼻をつままれた。

「一緒に花見に行くって言ったじゃない」

「ふぁい」

それを見て、私を起こそうとした相手が微かに笑ったのを見逃さなかった。


どうやら2人は姉弟で、藤の幼なじみらしい。

姉の桜は、ツヤッツヤの黒髪にくりくりの目が可愛らしい女の子。

弟は、少し赤みがかった髪して切れ長の目をした一見無愛想な男の子。

私、というか【藤】は。

髪は少し茶色く、瞳の色も黒ではなく茶色。

どうやら、時代にはそぐわない容姿のようで。

離れと言われる場所に、隔離されているようだった。

使用人以外で、出入りを許されているのが【桜とその弟】の2人。

2人は話し相手になってくれているようで、藤も楽しんでいるのが伝わってくる。

桜は藤と同じ歳頃、弟の方は5つ程下らしい。

(5つも下なのに、年上みたいなのは何故だ)

私自身、自分が(精神的に)幼いなと思うことはあるけれども。

どうやら藤自身もそうらしい。


花見、と言っても敷地内の藤の花を見るだけで。私の知ってる花見とはちょっと違ってた。

(お腹空いたな)

そう思った瞬間、視界が暗転した。

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