後桃園結義-2
「三国武将と戦国武将、戦わせたらどちらが強いか」
話がはずみすぎて、触れてはならないタブーに、二人は突っ込んでしまっていた。
戦国VS三国。これは永遠の謎にして、歴ゲーファンにとっては禁断の話題なのである!
ミズキが、
「『孫子の兵法』の注釈書を書いて兵法を集大成したのは曹操なんだ。その上、諸葛孔明の知謀に司馬仲達の幸運をプラスすれば、余裕で三国志軍団の勝ちだな。馬謖に山を登らせなければ」
と言い張れば、相良良晴は、
「武装が違いすぎるだろ! 戦国時代の日本は、南蛮から種子島と大筒が輸入されていて、しかも国内で種子島を大量生産していたんだ。三国時代の飛び道具って、連弩くらいだろ? いくら兵法が優れていても、種子島の火力には敵わないよ」
と切り返す。思わずミズキも熱くなる。
「日本の城は小さいけれど、中国の城は古代から『城塞都市』だ。近世兵器を装備した戦国軍団といえども、不慣れな攻城戦では手こずると思うよ。だいいち日本から大陸への補給路が続かない。大陸は広大だし、海を挟んでいるから。仮に洛陽・長安を陥落させても、蜀の山中に引きこもられたらそこで進撃は止まる。曹操が劉備に手こずったのと同じに」
「そ、そりゃアウェーじゃ補給線が延びきって苦戦するだろうが、三国軍団が日本に攻め入ってくると仮定すれば話は逆になるぜ?」
「そうだなあ、三国時代の魏・呉・蜀ともに海軍は弱いからなあ。いちど呉の孫権が兵士をかき集めるために倭国に攻め入っているけれど、不慣れな航海で軍団はほとんど全滅してしまった」
「じゃあ、海軍力の差で、戦国の勝ちだな!」
「まあまあ落ち着いて上杉謙信(姫武将)さん。お互いに地形効果の影響が大きすぎる。平等な条件を整えないと、公平には比較できなさそうだ」
横浜と神戸。戦国と三国。シウマイと豚まん。タイガースとベイスターズ。似て非なる両者の境遇。でもまあ上杉謙信(姫武将)どのこと相良くんは熱い人だなあ、ガチの戦国愛の持ち主だな、とミズキは良晴に同じ歴ゲーマニアとして好意を抱いた。
「……おっと。これ以上舌戦を続けていると、夜になっちまう。俺は今日は『温州蜜柑』どのの横浜ガイドだったんだっけ。まずは関帝廟から行こう! すぐそこだ。中華街の中にある。横浜の関帝廟はでっかいぞ!」
「中華街の中にあるのか。神戸の南京町はすごく狭いから、関帝廟は南京町から少し離れたところにあるんだ。その分、静かでいい雰囲気なんだけど……横浜の中華街はほんとうに広いな~」
「まあな。横浜といえば中華街。北条氏の小机城なんてすっかり忘れさられちまって、今じゃ女子校になっちゃって、俺みたいな男子高校生は立ち入り禁止だ。戦国ファンとしては寂しいぜ。でも、関羽ってどうして神として祀られているんだっけ? 劉備でも孔明でもなく、どうして関羽なんだろう?」
それはね、とミズキが蘊蓄を語ろうとしているうちに、関帝廟に着いた。これが関帝廟? 巨大だ! 凄い! 無数の観光客で埋め尽くされている! ミズキは思わず感動して、階段を上り関帝廟へと突撃していた。
相良良晴が、「おーい迷子になるなよ」と声をかけたが、興奮して耳に入っていない。
そしてこの時――観光客でごった返している横浜中華街を、なんの前触れもなく、唐突に地震が襲っていた。
震度五強ほどの強い揺れが、関帝廟をも激しく揺らしたのである。
「う、う、嘘だろっ? まずい! 建物が倒壊してきた!」
「危ない! 離れるんだ、『温州蜜柑』さああああん!」
さすがは「うさ耳野郎団」の救援専門武将。相良良晴が逃げ惑う人ごみの中を突進してくるが、容易には進めない。ミズキは良晴に感謝しながらも「関東は地震が多いとは聞いていたけど、まさか今日ここで来るだなんて!?」と自分の不運ぶり・逆神ぶりに驚いた。
そして、そこで意識が途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます