第8ワン【あそんでよ!】

 場所・自宅のリビング


 シチュエーション・彼女、全身鏡の前で踊っている。が、そこへブン太が遊んでくれとじゃれてくる


「――こらブン太。お仕事の練習してるんだから邪魔しないの。これあげるから大人しく一人で遊んでなさい」


 彼女、ブン太の大好きなサメのぬいぐるみを部屋の隅に放り投げる。が、ブン太、ぬいぐるみを咥えてすぐ彼女の元に戻ってくる


「ああもう! 取って来いじゃなくてね......ダメだ、一旦休憩しよう」


 彼女、冷蔵庫の中からペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、飲む


「......はぁ~。本番まであと一ヶ月。アイドルソシャゲのオーディションに受かったのはいいんだけど、初お披露目がYアリーナって。プレッシャーがヤバすぎて心臓が口か

ら飛び出そうだよぉ~。しかも私以外、他のコンテンツで人前で踊ったことある人ばっかりだし――」


 彼女、足元に温もりを感じ下を見ると、ブン太がおすわりしていた


「人の邪魔をする子には何もあげません。キミはいつも冷蔵庫を開ける音に反応するんだから」


 ブン太、鼻を鳴らしてアピール


「ダ~メ。獣医の先生にも言われたでしょ。「ブン太くん、ちょっと太りすぎだね」って」


 ブン太、それでも諦めず某レッサーパンダのように後ろ脚二本で立ち上がり再度アピール


「......まったくしょうがないなぁ。おやつガムで我慢しなさい」


 彼女、ブン太用のおやつガムを戸棚から取り出し与える


「食っちゃ寝て遊んで。私もたまにはお犬様になってダラダラ一日をすごしたいよ。アニメの主演デビュー作が大ヒットしてくれたおかげで、食べるに困らなくなるくらい仕事が入るようになったのまでは良かったよ。でも事務所もここぞとばかりに仕事入れすぎ。一日三本までならまぁいいよ。新人だし、もっといろんなところに私を売り込まなきゃいけないんだから。でもさすがに四本とかは無理があるって。これじゃあそのうち倒れちゃうよ」


 彼女、最近買ったばかりのダイニングチェアに座って身体を軽く反らす


「ブン太のおやつはタイマーセットしておけばどうにかはなるんだけど、問題はトイレ。キミは室内だとあんまりしたがらないもんね。もしかして露出魔? 人に見られないとトイレできないタチとか?」


 ブン太、おやつガムに夢中で無視


「せめてお披露目ライブが終わるまでの間はペットシッターに頼もうかな。でもブン太、結構人見知りなところもあるんだよね。かえってストレスの原因になちゃうかもだし....

..う~ん困った」


 彼女のスマホが鳴る

 相手は母親


「もしもしお母さん。どうしたの? ......え、舞菜香まなかが夏休みを利用して来週こっちに来たい? また随分と急だね......そうだ! あ、ううん! 丁度いいタイミングで連絡来たなと思って。あのね――」


 彼女、スマホの通話を切る


「ねぇブン太。来週北海道から舞菜香がやって来るって。そう、あの舞菜香。ブン太におみやげ沢山持ってきてあげるから、いい子で待っててね〜だって」


 ブン太、舞菜香の言葉に反応して耳がピンと立つ。そして尻尾をゆっくり振り出す


「今じゃないよ、来週だって。でもどうしようかな~。ブン太、今日はとても悪い子だからな~。お土産そんなに沢山持ってこなくていいって言っちゃおうかな~」


 ブン太、慌てて立ち上がり顔を彼女の足にこすりつける


「この現金なヤツめ。告げ口されたくなかったら私と一緒にダンスの練習をすること。いい?」


 ブン太、吠える


「よくできました☆ じゃあ早速、どっちが上手く踊れるか勝負だ!」


 一人と一匹、全身鏡の前に向かってダッシュ


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