第6ワン【ここからはごしゅじんさまのすてーじだ!】
場所・外
家の近所を散歩するブン太と彼女
「さすがに私たち意外に散歩してる人はいないね。そりゃそうか。まだ朝の5時前だし」
SE・遠くで聴こえる原付バイクの音
「おっ、新聞屋さんかな。こんな朝も早い時間から働いててお疲れ様です」
ブン太、彼女の声にも反応せず。散歩を楽しむ
「4月も後半だからもっと温かいと思ってたけど、朝方はやっぱり冷えるね。ブン太は寒くない? って寒いわけないか。キミたちお犬様の平熱は人間より一・二度高いもんね。むしろこのくらいの寒さなら丁度いいのかな」
ブン太、彼女の方へ振り向く。が、すぐにまた正面に向き歩いてゆく
一人と一匹、近所の公園に入る
「見て見てブン太、お空がようやくお目覚めだよ。綺麗だね~」
彼女、ブン太を抱っこして空を見上げる
「......実は昨日さ、デビューからお世話になってた先輩が声優を辞めたの。食べて行けないから実家のある名古屋に帰るんだって。急な話でビックリしたよ。だってそんな素振り全然なかったし。それに私なんかより全然上手いんだよ。特に先輩の演じる名古屋弁キ
ャラは一部の音響監督さんたちから高い評価もされててさ。なのに声優を辞めるだなんて」
ブン太、静かに彼女の言葉を聞く
「あと先輩、芸歴10年経った今でもずっと掛け持ちでバイトしてたんだって。10年だよ。信じられる? 改めて声優業界の厳しさを思い知らされたよ......私は学生時代に一生懸命貯めた貯金が結構あったから、バイトしなくてもこの一年はどうにかなったけど。
明日は我が身。バイトしない方が身軽に動けるにしても、肝心のオーディションに受からない、仕事がなかなか入ってこないんじゃ話になんないよね」
「で、先輩との別れ際。こう言われたの」
「『二ノ宮、お前なにビビッてんだ。演技に先輩も後輩もないだろ。生き残りたいなら誰が相手でも遠慮なんてするな。あと変なところでプライドを持つのはお前の悪いクセだ。たかが無名の一声優の経歴なんて現場の人たちが知るわけだろ。失敗を恐れて萎縮してんじゃねぇ』って。最後までお説教で終わりか、と思ったら――」
『私みたいに悔いの残らないよう、毎日を大切に全力で生きて欲しい』
「最初は年の離れた、面倒見がよすぎるちょっとウザイお姉ちゃんくらいにしか思ってなかったんだけど。泣き脅しされたら「はい」としか言えないじゃん。随分と重たい物を託されて正直辛かった。でもブン太のおかげで覚悟が決まったよ」
「......私、もうちょっとだけ頑張ってみるよ。だってこのまま終わるなんて悔しい
し、それにさ――」
「せっかく声優・二ノ
「応援してくれる?」
ブン太、彼女の顔を舐める
「応援、受け取りました☆ (SE・彼女のお腹の鳴る音)そういえば昨日あんまり夕飯食
べてなかったんだっけ。(彼女、ブン太を降ろす)よし、じゃあブン太。コンビニで朝ごはん買って帰りますか。(ブン太、尻尾を振って喜ぶ)キミのご飯じゃなくて私の分だよ。ホント、ブン太はすぐご飯の言葉に反応するんだから。そんなんじゃ女の子にモテないぞ~。行こう♪」
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