1-16 陽キャな俺の犯人探しレーダーぴぴぴ

 というわけで元の教室に戻って来たわけです。上田は見当たらないのでチョケる。


「へいへいへーい。皆ー、無事帰ってきましたよ時舛がー。さー犯人探しを始めますよー。マジで言っちゃいけないコトを言った人がいたでしょうよー。俺の元カノがなんだとかー」


 言いながら田口の隣に座り、俺主導でバカをやり始める。


「俺もう犯人解ってるから」

「ふふっ、誰?」

「犯人探しレーダー開始。ピピピピピ」


 ふーふーふー。誰にしよっかなー。ハシグッチグループはあてられないしー、別グループがいいよなー。というわけでー、今回は今まであえてスルーしてた、教室の後ろに陣取る見た目派手なヤンチャっ子グループに決定。

 中でもちょっとだけ交流のある福原にパス。


「ピピピピピ。犯人は、福原」


 福原はそのリンゴみたいなボブヘアーを振り乱して反応する。


「違うしっ。なんでアタシ!」

「え? だって福原、大体俺とテストの点数一緒やん」

「違うし、アタシあんたより成績上やし!」


 はは、リアクションおもしろ。


「時舛、なに福原にダル絡みしてんの」

「いやいや田口、これはダル絡みじゃない。実は俺と福原って正式な絆あるから」

「お前と福原が? そうなん?」

「なー福原ー。俺ら去年の文化祭でさ、大変やったよなー」

「えー。まー。うーん」

「コレ言うほど絆か? 福原困ってない?」

「ははははっ。テントの設営かなんかで一緒に組み立ててさ、柱の留め具が福原のとこだけ上がらんくてさ、俺が代わりにやってあげた」

「あそれはちょっと絆やわ」


 とはいえ、本当に絡みはその程度。ぶっちゃけちゃんと話すのは初めてかな。


「てかさっき言ったの優子やし」


 福原が言っている。


「え? 優子て誰?」


 まだクラスメイトを把握していないので、下の名前で呼ばれると誰のことか解らない。福原が指す方を見る。


「守本のこと」


 ああ、アイツか。いつも教室の隅にいる派手グループのボスみたいな奴。

 俺と一緒でバッチリ新学期キャンペーンの身だしなみを決めている。髪は黒いけどスプレーかなんかで艶を出してる。

 アイラインも引いてるから目が切れ長でカッコいいんだよな。

 

 だが交流が全くないから、どう喋っていいか解らん。

 俺が少しだけ言葉に迷うと。 


「喋ったことないからやりにくい奴やん」


 お、守本本人が救ってくれた。結構面白いなコイツ。堤や後藤からも噂聞いたことあるし、カリスマ性あるやつなのかも。

 というわけで時舛と守本、初対談開始。


「はははっ、バレたか。でも俺、守本のことは一年の時から知ってたよ。すれ違う時も意識してたし」

「嘘つけ。お前これナンパやろ。全員にそう言ってるやろ」

「待てと。確かにナンパやし全員に言ってるけど、守本に関しては特別やて」

「ナンパって認めてもうてるやん」

「だって守本の髪の色おぼえてんもん」

「え、髪の色?」

「入学した時茶髪やったろ。で、夏くらいに黒に戻って。一瞬赤のインナーカラーいれてたやん。俺あの赤メッシュ大好きやったのに」

「あれはメンドいからやめた」

「なんで?」

「やたら先生に絡まれる。授業中寝てたら、こっち謝ってんのにガチギレされる」

「解る。髪イジるとやたら先生あててくるよな。荒木先生とか圧強いし」

「やろ? だからしばらくは真人間になって身を潜めるつもり」

「じゃあピアスしよ。耳あけてるやろ?」

「あけてるけど」

「守本顔整ってるし、大きめのリング系似合うと思う」

「むっちゃアドバイスしてくるやん」

「だって俺だけチャラいと俺に先生のヘイトが集まるやん? 分散させるべきやん?」

「絶対そうやと思った。お前、仲間おらんもんな、このクラス」

「いるよ、福原と河本君」

「違うし! アタシと男子一緒にすんな!」


 ははーん、守本グループ結構面白いじゃん。福原をオチに持ってこれるから安心して会話できるわ。

 ここで田口より一言。


「あのさ、教室の端と端で陽キャの会話見せつけんのやめてくれん? 俺ら辟易するから」


 クラス中にドっと笑いが起きる。

 俺もなんか笑った。

 別に陽キャラを狙ってやってるわけじゃないけど、チャラいのが二人揃うと必然的にそういう風になるよな。


「でもさっき時舛の元カノ云々言ったのは、マジで私じゃないよ」


 守本が律儀に教えてくれた。

 別にそんなのいいんだけど、あのタイミングで暴露してくれるのは面白かったし。


「ああ、ゴメン時舛。さっきソレ言ったの俺、俺の裏声」

「お前か田口、マジで余計なことを」


 俺と田口はこういう関係。

 一言で言えば悪友。大体いつも俺が騒いでいて、田口は冷静なツッコミ。

 でも面白そうなことがあれば、絶対面白い方向にボールを転がしてくれるお茶目な男。俺とは小学校以来の幼馴染である。


 さてさて、もう一人の幼馴染の上田はと言うと、まだ帰ってこない。俺はあまりにもクラスを騒がせたので、一応みんなに訂正をいれておくことにした。

 議題、俺と上田の関係について。


「みんな。勘違いせんといてや、俺、上田には色々と隠し事するけど、それって俺と上田が仲悪いとかじゃないからな。そういう噂はするなよ。不仲説は流すなよ。上田って俺にとって父親的存在やから、改まった報告をしたいだけ。みんなもわかるやろ? 学校で色々あってもさ、父親には整理がついてから報告するやろ? それと一緒。守本、分かった?」

「解った解ったて」

「うぇーい。守本グループ飲んでるぅ? 福原、また一緒にテント組もうぜ」

「ウザイわ」


 適当に絡みつつ会話は終わる。

 SNSがあるとすぐ噂広まっちゃうからね、こんなことで俺と上田が不仲と言われてはたまったものではない。俺と上田は超仲良しなのだー。


 では、残りわずかな昼休みを楽しむことにする。相変わらず田口と漫才したりー、ハシグッチと喋ったりー、ラインで堤に謝っておいたりー、視界の端っこで守本を意識してみたりー。

 そして昼休みギリギリの時間に上田が戻ってきて。


「あ! 時舛帰ってたのか! 一年三組行く時間がなくなったろ!」


 俺は澄ました顔で応じる。


「悪い悪い。逃げてたわけじゃなくって、途中でその本人に俺からラインしててさ」


 適当な言葉を並べている最中に、教室の後ろから飛んでくる女子の声。


「上田ー。なんか私、時舛にナンパされて困ってたんやけど。うぇーいとか言われてさ」


 守本、お前は早くも俺イジリに加担するのか……! でもそういう所嫌いじゃないぜ……!

 上田はまた怒鳴り芸するものかと思ったが、上田は呆れたような表情を浮かべるだけだった。


「時舛、さっき北林さんも同じこと言ってたぞ。いけすかないパーマ野郎にナンパされたって。まったく、どれだけの女子に手を出せば気が済むんだ、節操がなさすぎるぞ……」


 再びクラスに爆笑が巻き起こる。

 確かに、節操がないです。

 ちょっと本当に調子に乗るのを控えようと思う昼休みであった。

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