1-15 陽キャな俺はどこでもナンパする

 で、アホの上田から逃げ続けまして、旧校舎の方までやってきました。


「時舛! どこだどこにいるー!?」


 一応上田は撒いたはいいけど、まだ声が遠くに聞こえる。どこかに身を潜めてやり過ごしたい。

 というわけで、抜き足差し足忍び足でコチラヘやってきました。

 旧校舎四階の端っこ。なぞなぞクラブの暖簾の前、いつもの掲示板で今日の一問を確認。



 地位や名誉を得ると、みんなを騙して悪いことをしちゃう海の生き物ってなーんだ?



 ふーん。おっけおっけ。

 上田に気が付かれるのが怖いので、声のボリュームを押さえながら暖簾に話しかける。


「わが友ゾロアスターよ。いるか」

「やや、この声この匂い」


 お約束の挨拶が始まるが、今日は遮る。


「すまぬゾロアスター。貴殿が顔を隠すように、洲屋忍者たる我もまた、人には話せぬ事情あり。故に、どうかなここは一つー、袖振り合うも他生の縁というしー、俺も追われて逃げているわけだしー、この俺を匿ってみるというのも、悪くはない選択肢だと思うのだがー」

「よかろう。入り給え」

「――サンクスッ!」


 俺は華麗に暖簾の中へと身を滑り込ませた。

 そして暖簾の中で、初めて素顔のナゾナ・ゾロアスターと対面した。


「え――?」


 めっちゃ美人だった。めっちゃ美人がそこにいた。身長は堤より高かった。てかスタイルよすぎ。ポニーテール似合い過ぎ。目鼻立ちは外人かよってくらいくっきりしている。


「ゾロアスター? マジ? おま、ありえんくらい可愛いな。ホンマに彼氏おらんの?」


 やべえ初手で彼氏いるか聞いちまった。これはドヤリチンだ。

 ゾロアスターと思しき美人は無反応。怪訝な目で俺を見てくるばかり。

 な、なんで俺こんなに睨まれてるの。気の合う友人だと思っていたのに。

 返答は美人の後ろから聞こえてきた。


「いや北林さん、違うんですよ。彼、マジで私の正体知らないんで、北林さんがナゾナ・ゾロアスターだと勘違いしてます」


 ん? この声はいつものゾロアスターか。

 よく見れば、めちゃかわ美人の後ろにもう一つの人影がある。

 ってことは、この人はゾロアスターじゃないのか。てか雰囲気的に先輩じゃね? 俺すごい失礼なこと言ってね?

 北林さんと呼ばれた上級生は、完全に不審者を見る目で俺を見ていた。


「……」


 しかも無言で全く笑っていないし、笑う素振りもない。

 や、やばい。この人怖い。絶対にナンパとか嫌い系だ。


「彼氏ならいるけど、何?」


 全力で俺という存在を拒否してきやがるぜ。

 ひゅるるると小さくなって、友へと助けを求める。


「ぞぞぞ、ゾロアスター助けてー」

「すまない。実は今、会議中だったんだ。ちょうど君について」

「え俺?」

「特にルッキズムについて」


 ゾロアスターめ。貴様もインテリ系だったのか。俺は左翼でも右翼でもなく色欲だぞ。

 ともあれ、あまり歓迎されていない雰囲気なのですぐに撤退することにする。


「会議中邪魔して申し訳ない。すぐに出ていく。ちなみに今日の一問の答えは『イカ』。理由は、立場や地位が上がって『様』をつけて呼ばれると『イカサマ』になっちゃうから」


 ゾロアスターはいつものキャラに戻って答えてくれる。


「正解である。追われながらもちゃっかりと、なぞには答えるその頭脳。見事なり。さすが洲屋忍者の時舛」

「褒めるでない。今日の一問を解くのなんて朝飯前である。ではオイラはこれにて、ごめんなすって」

「はいはいごめんなすって」


 しゅるりと暖簾の外に出る。そのまま立ち去ろうかとも思ったが、なんとなくもったいないので立ち止まる。

 もう一度暖簾に向き直り、呼びかける。


「北林さん。あの、その、さっきは、変なこと聞いちゃって……」


 暖簾の中の美人先輩の反応を伺う。もちろん無反応。

 ここでちょっとだけ間を作るポイント。

 神妙な息遣いをして、後輩っぽく緊張したフリで、さっきのこと気にしてるみたいな雰囲気だして。

 謝ると見せかけて、かーらーのー。


「俺は彼女いませんよ」


 うぇーい。聞かれてもないのに答えちゃうやつー。


「じゃねー、ぷっぷくぷー。北林さんは多分このガッコで一番可愛いよー、まったねー。ゾロアスターは今度お茶しようなー」


 はははー、俺ナンパすぎー。また上田に怒られるー。でも北林さんって人マジで美人ー。出会えてよかったー。

 そういえば、せっかく暖簾の中に入ったのにゾロアスターの素顔を見損ねたな。そっちも早く正体が知りたいぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る