1-14 陽キャな俺の昼休み

 で昼休み。男三人でお弁当を食べながらおしゃべりタイム。


「まさか本当に全科目で赤点回避するとは、ようやく時舛を生徒会で引き取って、真人間に育てられると思ってたのに」


 熱血真面目系男子上田。さっそく愚痴をこぼす。生徒会所属で学級委員長でもあるコヤツは、いつもいつも俺を気にかけてくれる俺の父親的存在。

 故に、適当に対応してオーケー。


「ハハハー、残念だったなー、俺頭いいからなー」

「時舛、お前先週もナンパしてただろ」

「え?」


 誰? 誰のこと? ひょっとしてゾロアスターかな。遂にばれちゃった? 俺とゾロアスターの秘密の関係遂にばれちゃった? いいけど、別にいいけど。むしろ俺が見つけ出した逸材として皆に紹介したいまであるけど。


「金曜日の放課後、泉さんがイケメンと話せて嬉しいーと言いながらスキップしていたぞ」

「ああ、そっちね」

「そっちとはなんだ。まだいるのか」

「まあまあまあ、うい田口、ボールパス。俺は母親に日頃の感謝を伝えるライン送ってるから頼んだ」


 興味ねえ会話からログアウト。上田は多少なら雑に扱っていい存在。

 というわけでスマホポチポチ。ご飯もぐもぐ。


 もちろん、母親への感謝のラインなんて嘘で、本当は女友達のラインに答えている。内容は、まあまあまあ高校生の男女にありがちな内容。相手の送ってきた行数にあわせて自分も同じ行数分返すという暗黙の規律を遵守して、スマホポチポチ。ご飯もぐもぐ。

 前から聞こえてくる男友達二人の会話。


「ん? 田口、何見てんのそれ?」

「えこれ? ニュースメディア研究会の新人用の教材」

「ほーん教材用ね。この写真でいい記事が書けるのか」

「いい記事っていうか、週刊誌風の記事を書こうみたいな企画にしようと思ってる。おもろない?」

「あー、なるほど週刊誌ね。過激な見出しが映えそう」

「やろ? 我ながらいいアイディア」

「どれどれー? 俺も見せてー」


 興味湧いたのでちょい参加。田口のスマホを見せてもらう。

 するとその画面には学校の昇降口の前で多数の女生徒に囲まれながらピースサインをするパーマの男が映っていた。


「って俺の写真かい! 週刊誌の記事に使うなよ!」

「え? だってお前今朝『俺人権捨てるから写真撮ろうぜっ』て言ってたから」

「そこまでは言ってねえ!」


 とツッコむけれど、別に俺の写真が文化系クラブの教材に使われようとどうでもいいし、むしろ面白いので使用を許可。再びラインに戻る。


 スマホポチポチ、ご飯もぐもぐ。

 相手の既読つくの早い。奴もスマホしながら飯食ってる。ラインの内容はまあまあまあまあ新学期にありがちな、人間関係の悩みみたいな。クラスに因縁あるバスケ部がいてウザイとか。


 前から聞こえてくる男友達の会話。


「そういえば田口、新聞部は一年入った?」

「新聞部じゃなくてニュースメディア研究会ね」

「ああ失敬。名前変わったのね。でニュースメディア研究会の一年は?」

「二十人」

「多っ」

「放送部吸収した影響。正式に映像系扱うようになったから。新聞とか社会情勢には興味ないけど動画編集したいって奴が多い」

「あー、やっぱその需要か。ユーチューブ好きな子多いもんな」

「そ。今んとこ、動画編集にだけ焦点あてたクラブって実はないやん。やれるとしたら、うちと、パソコン部と、映画研究会くらい?」

「映画研究会は創作部に吸収されたから、実質田口のとことパソコン部の二択」

「そっか。まあ、その二択ならうちに人が集まるのも納得やろ。パソコンは色々とヘビーで女子には入りづらい」

「それはガチ。パソコン部は技術力はすごいけど」

「外面が悪すぎる」

「それな。まあ男子からするとあの部室も別に悪くはない空間だけど。ああでも田口聞いて。なんか草野先輩が今年からクリーンなパソコン部を目指すって言ってて、部内でアレの使用を禁止にしたらしい。アレ、アレ、えーっとなんと呼ぶのが適切なのか」

「なに?」

「解った。女性キャラクターの身体の一部を模したマウスパッド」

「ふっはははは! 上田、言葉選んだなー! あのマウスパッドね! 一部を模した奴ね!」

「TPO、TPO大事やから」

「てか禁止にすんのおせえ! あんなん初めから許されてるわけねえやろ!」

「ははははは! あのマウスパッドはあらゆるハラスメントに抵触してるよな!」


 スマホポチポチ。なんか二人で笑ってんなー。面白いことあったのかなー。


「てかさー、田口のクラブで動画編集教える環境ってどうなん? 機材も人も大変じゃない?」

「機材は新聞部時代のあらゆるコネを使って七台分揃えた。新入生は三グループに分けて、紙媒体、ウェブサイト、映像の三部門でローテンションして勉強してもらう。それぞれの部門に教育担当を立てて、俺が総監督。パソコンで困ったら河村先輩特殊召喚。ぶっちゃけ映像技術に関しては皆解らんし、ある程度技術がたまったら、その道いってる卒業生呼んでご教授願おうかなーって感じ」

「田口、お前ホントしっかりしてるよな。時舛、お前もプー太郎してずに田口んとこで教えてもらえ。パソコン部でもいいぞ」


 会話スイッチオン。


「お前は俺の父親か」


 会話スイッチオフ。スマホポチポチ。


「いや上田。教えるつっても、構成とか脚本とかは絶対コイツの方が上手いから。技術を与えたくない。それは天に二物を与える」


 ふーん、俺って天だったんだ。すげー。

 二人の会話をほとんど何も聞いていないほどラインに没頭している。やたらと相手の返信が早いし行数も三行以上あるので、お弁当を食べながらでは追いつかない。

 一旦、お弁当を食べるのに集中しようかなと考えていると――


『今から会わん?』


 ――ドキッとした。不意にくるこういうメッセージはドキッとする。もう気持ち押さえきれんっていう時は一行単位のやり取りになるから。


『マジで?』

『そっち行っていい?』

『まだ飯食ってる』

『誰と?』

『田口と上田』

『抜けれん?』


 ニヤけた。一番好みで可愛い女友達。俺に会いたいってさ。


『一瞬で食う』


 そう返信してスマホをポケットに突っ込んだ。ガツガツと残り半分ほどのお弁当をかきこんだ。


「一年と言えばさ上田。一年三組って荒れてるんじゃないっけ。生徒会的にはどうなの、その辺は」

「あー。あの金髪の子な。もう田口の方でも噂なってる?」

「うん。俺の方ってか、結構皆知ってると思う。原因なんなん?」

「……まあ、原因はいわゆる男女関係ぽい感じ。発端は何かのユーチューバー批判して、そのユーチューバーが好きな子が怒って喧嘩になって、私の彼氏の方がカッコいいだなんだと。まだ事件ってわけでもないし、生徒会が介入する段階ではないけどさ」

「ふーん。ユーチューバー批判?」

「詳しくは僕も知らん」

「風紀委員会はどう考えてる?」

「アイツらの事情はもっと知らん。行動するなら生徒会に相談してからと言ってある」


 もぐもぐごっくん。弁当終了。毎朝作ってくれる母に感謝。即座に片付け。

 スマホ取り出し。ライン着信一件、内容『行く』。返信はせずに、手鏡アプリ起動、顔確認ルーティーン開始。鼻よし、目よし、眉よし、鼻の中もよし、唇は軽くハンカチで拭ってよし、前髪調整よし、パーマかっこよすぎてよしよしよし。


 あどうしよ。ガムかもっかな。さすがにそれは引かれるか。『キスすんの?』みたいな。ガムは不要。つか学校でキスは絶対しねえ。


 さあ行くかと気合を入れていると、近くで食べていた女子が会話に入って来た。


「それ私も知ってる。池谷ちゃんやろ? めっちゃ可愛い子やんな」


 身を乗り出して聞いてくる女子に対して、上田が対応する。


「こらこらこら、名前を出すな。こういう所から噂話は広まってだな」


 真面目な上田は女子のお喋りを咎めようとするが、同じ秀才でも逆に田口はこういう時に乗せてくるタイプ。


「そんな真面目な上田君でも、可愛いか可愛くないかで言うと?」


 田口が手でマイクを作る。注目のマイクが上田に寄る。上田は頬をぽりぽりとかきながら答える。


「まあ、ぶっちゃけ池谷さんマジ可愛い。だははっ。生徒会入らんかなあの子」


 そして、一瞬でクラス中に噂が広がり盛り上がる。

 曰く、一年で何か事件をやらかしている奴がいるらしいと。そいつが池谷という名前で金髪美少女らしいと。

 思い当たる節がビンビンにある俺は、何食わぬ顔でやり過ごします。


「はあ。また噂話を広めてしまった。時舛、お前も気を付けとけよ。朝っぱらから新入生ナンパしてると、よからぬ事件に巻き込まれるし、よからぬ噂も広まる」


 上田が俺の肩にパンチしながら言っている。池谷の件を上田に知られたくないので、ここはちょっと真剣に対応しとく。

 スマホをポケットにしまって、身なりをただし、まっすぐ上田の方を見つめる。


「上田。大丈夫、俺見境ないわけじゃないし、今朝は騒ぎ過ぎたかなって反省してるところだし。ありがと、お前が心配してくれると、俺も自分の行動を見直せるから、助かる」


 上田はムスっとしながらも引き下がった。そのまま真面目系男子を見つめてやると、髪を指でくるくるいじり始める。

 ふははは、イケメンは同姓をも手籠めにするのだー。

 さあて、じゃあラインくれた女の子のとこ行きますかー。池谷のことはしばらく放置じゃー。

 と、立ち上がろうとたら。


「あれぇ? 池谷ちゃんってー、時舛君の元カノじゃなかったっけー?」


 クラスの中の誰かが、そんな爆弾発言を投下した。


「ぶほぉっ!?」


 俺は噴き出した。誰だよ、マジで要らんこと言う奴……! クラス中大盛り上がりになっちゃうでしょうが……! 上田が反応しちゃうでしょうが……!?

 しかし時既に遅し。

 色めき立つ女子達。

 スイッチの入る上田。

 おもいっきり怒鳴られる俺。


「こんのバカタレ! やっぱりお前が原因かこの! なんか聞き覚えのある名前だとおもっとったんじゃ!」

「違う違う違う違う! 池谷とは知り合いやけどそれは別件やて! ホンマにそれは違う話!」

「アホ! 既に調べはついとるわ! お前が池谷さんとの関係を清算すればすべて終わる話じゃろうが! こんのバカタレ! 今すぐ一年三組行って解決するぞ!」

「ひいいいい! 無理無理無理! 田口! 堤来たら言っといて!」

「待て貴様あああああああ!?」


 クラスは爆笑だった。爆笑のまま俺は教室から飛び出した。

 そして上田が追いかけてきた。俺は逃げた。

 この手の鬼ごっこ的なやり取りは、教室の外に出ればすぐ終わるものだけど、上田はマジでずっと追いかけてくる。捕まると本当に一年三組に行くはめになるので、俺は本気で逃げた。


 ……クッソ、マジでタイミング悪い。堤ゴメン、俺も会いたかったよぉーん。

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