1-13 陽キャな俺とクラスメイト達
へーいへいへいへーいへい。
初っ端の授業は学期始めのテスト返しだったので、授業が早めに終わったぞい。次の授業までの休み時間が長いので、なんか誰かと面白い話がしたい。今朝は馬鹿な騒ぎ方をしたので、今度はインテリなグループがいいなぁ。
「へいへいへーい。呼んでる? そこのインテリグループ俺のコト呼んでるー? オレの点数知りたがってるー?」
「呼んでねえよ」
反応してくれるのは男友達の田口。小学生からの幼馴染で中学でもほぼ毎日一緒にいた。
高校生になった今は強面気味の短髪野郎になっており、しかし厳つい見た目に反して頭が良いのでクラス内ではクールな秀才キャラ。部活は文化系のナンタラ研究会に入ってて、いつも頭いい女子と絡んでる。俺もそのインテリな輪に混ざりたい。
俺は自信満々に自分のテストの点数を自己申告する。
「言っても日本史やで? この点数は俺と荒木先生の努力の結晶やで?」
「何点?」
「六十二」
「よくここに混ざれると思ったよな」
「え? みんな何点なん? そんなもんちゃうん?」
と田口の周りにいた女子達に聞いてみる。か細い声で「八十点くらい~」みたいな返答多数。とりあえず「すげー」と大きめのリアクション入れときつつ、ここの女の子たちの様子をうかがう。
観察観察。全体的に清楚で可愛い。そこまでお洒落してメイクもしてるってわけでもないけど、みな肌がキレイ。新学期キャンペーンでパウダー一層くらいは塗ってるのかな。眉も微妙に描いてるかもしれん。髪は美容院で切ってもらったのをそのまま保守してるって感じ。まあよくいる女子高生って感じで可愛い。全然みんな彼氏とかいそう。
しかし、この手の普通に可愛い女の子でも、奥手な子が多く、如何に俺がイケメンだからと言って、今朝のテニス部員たちのように俺が会話に混ざるだけでテンションを上げてくれるものではない。みんな俺という異分子に一歩引いてる。
うーむ何か会話の糸口があればいいのだが。
なんとなく田口にも点数を聞いてみる。
「田口は?」
「俺? 百点」
「お前酷いな。今、点数言ってくれた人全員を踏み台にしたぞ」
「これがインテリ組。容赦なく他人を踏み台にして自分の点数を叩きつける」
「叩きつけられてる時もあるんやろ?」
「まあね。この面子やと俺が下になることのが多い」
すると「そんなことないよー」と薄く笑う女子達。
そして、その女子達の目はみな田口の方を見ている。
クッ。悔しい。いくら田口は委員会や部活での付き合いがあるとはいえ、俺ではなく田口ばかり注目されるこの状況が悔しい! なんとかしてやりてえ!
そこでグループの中で唯一話せる、橋口さんこと、ハシグッチに話を振る。
「なあハシグッチ教えてくれ。このインテリグループで田口が尊敬を集めてる理由はなんなん? この男のどこがいいの?」
「えー? ええとー。それはやっぱりそのー」
「そのー?」
「そのー、けっこう思想が左翼的な割に、よくあるイケイケ社長系の個人主義にかぶれてなくて、割と常識人なところ」
うむ解らぬ。この手のインテリボケは処理の仕方も解らぬ。任せたぞ田口。
「橋口。そのボケは時舛には伝わらん」
「ぼ、ボケじゃないのに」
インテリの世界を醸し出す二人に俺がだるツッコミをいれる。
「こらー、インテリ漫才すなー。インテリにかこつけてイチャつくなー」
「イチャついてねえよ。イチャつきたいのはおめえやろ」
「ねえハシグッチ。田口が左翼なら、俺は何ヨク?」
「え? えーっと、それは難しい質問かなー」
答えるのが難しめのフリをしたので、ハシグッチが考える間に俺が喋りまくる。
「俺、サッカーなら両翼こなせるよ? 自慢じゃないけど両足でセンタリングできるし。コーナー直接狙えるし。でも野球は内野しかやりたくない。ライトもレフトも守備のとき暇やん?」
「お前にとって右翼左翼はスポーツ用語でしかないのか。ま大半の人がそうか」
などと田口と漫才している間にハシグッチがさっきのフリに回答。
「あ解ったー。時舛君はー。何ヨクかっていうとー」
「うんうん」
「色欲」
「お、上手い橋口。それ、ナイスでハシグッチ」
キャッキャーとお上品に笑う田口率いるお淑やか女子グループ。
くそ、俺はこんなに頑張ってるのに、このインテリ漫才にいれてもらえねえ。こうなったらもう軟派にやるしかねえ……!
「正直に言おう。俺もインテリ女子から尊敬を集めたい」
「やめとけやめとけ。冗談は髪だけにしとけ」
「えっへ。アイロン頑張ってきちゃった。パーマパーマ、かっこよくない?」
とチャラついてみても、今朝のテニス部の一年みたいに受けはしない。辛うじてハシグッチが「時舛君かっこいいー」って笑ってくれるだけ。
「くっ、解った。田口が中学で好きになった女子の情報オークションにかける! ハイ! 五百円から!」
「はっはっは。このグループではその手段は通じないんだよなぁ」
「しゃーない、普段は動画NGやが、今なら一緒にティックトック撮ってもいい」
「それも効かないんだよなぁ。ショート動画系は見てるだけで満足できるからなぁ」
「お弁当の具、一つやる」
「それは舐めてる」
「手相占いとか」
「ナンパ師みたいになってきてるぞ」
お淑やかなインテリ女子達は笑ってくれるものの、その笑顔はやはり遠慮がちである。
ま、そう簡単に距離は縮まらんか。こういう女子は何かきっかけがあればすぐ仲良くなれると思うし、今は諦めて普通の話題を振るとしよう。
そう思ってふと口に出してみたのが。
「そう言えばこの前俺、泉さんと話したわ」
三年の才女、泉さんの件である。俺はその名を出した瞬間に、ザッと音が鳴るほど視線を浴びた。今まで目をそらしていた人が全員俺を見た。
「全員顔あげたやん。田口、ここの一帯、全員俺の方見てるぞ」
「時舛、勘違いするな。お前に対する興味関心じゃないぞ。お前、泉さんに手出してへんやろなあっていう警告の目やぞ」
「お、おん」
「じゃ話して」
ボケられる空気でもないし、クラス中から早く話せよって圧を感じるので、ありのままを話す。
「俺、先週、わけあってなぞなぞクラブ探してたんよ。その時たまたま泉さんと出会ったから、なぞなぞクラブの場所知ってますかって聞いたの」
「ほう。なぞなぞクラブね」
「うん。そしたら泉さんに『そんなクラブは知りませんが、ナゾナ・ゾロアスターに用事がある方は皆さんそこを左に曲がられていますよ』って返されて」
言いながら、めっちゃ注目を浴びてるのが解る。インテリグループの一角を飛び越えて、遠くの名前知らん女子さえ俺を見ている。
そんな大した話じゃないんだけどな。泉さん効果すごすぎ。
「で、俺もイマイチ何言ってるか解らんかったから、『パチンコ屋に換金所がどこか聞くみたいな言い方ですね』って返したの」
このマニアックな比喩表現が伝わるかと不安だったが、田口がいいリアクションを返してくれる。
「時舛、お前。ソレちょっと頭いいわ。感心した」
「え? やっぱり? やっぱり? あんときの俺はインテリやった?」
「うん、インテリインテリ。で泉さんはなんて?」
「あーなんか、よく解らんけど、『パチンコ屋の店員に換金所の場所を聞く』じゃなくて、『大学教授に過去問の在りかを聞く』と言った方が正しいってさ」
「ゴメン時舛君。それもっかいリピート。正確に」
ハ、ハシグッチさん? 目つき怖いよ? いつもの柔らかい雰囲気消えてない?
「えーと『パチンコ屋の店員に換金所の場所を聞く』じゃなくて、『大学教授に過去問の在りかを聞く』と言った方が正しいって、言われたけど」
見ればハシグッチは手帳にペンを走らせている。マジで泉さんの言葉を書き取っている。
「田口。泉さんの言葉って書き取ってまで考察されるもんなん。あの人お釈迦様クラス?」
「まあ、どちらかというと閻魔大王的ポジション」
なおさら意味解りません。大人しくハシグッチに聞くことにします。
「ハシグッチ、どう? 閻魔大王のお言葉らしいけど、なんか解るん?」
「ううーん。どうかなー、泉さんの真意はー」
とクラス内で話していると、唐突に廊下側の窓からえげつねえ早口が聞こえてきた。
「はいはいはいはいそこそこそこそこ、パチンコ屋と換金所って共謀して利益を得る関係だけど、大学教授と過去問はむしろ利益相反的な関係にあるから、風紀委員会がなぞなぞクラブを看過するのは三店方式的な利益目的じゃなくて、単に強制的に取り締まる校則上の根拠がないだけって言いたかったんじゃない? 風紀委員会単独だとクラブ活動に対して勧告はできても命令はできないから」
とてつもない早口だった。新幹線みたいに言葉が流れたので、俺はポカーンだった。
ポカーンのまま声の主だけ認識する。
廊下の窓から顔を覗かせるのは、二年で一番頭がいい女子の林田さんである。絵にかいたような天才女子で眼鏡で、体が全体的にひょろながい。顔もちょい長い。
けど笑ったり焦ったり表情豊かな子なので可愛い。あと喋り方も癖あってかわいい。
そんな林田さんに対して、俺達のクラスからは代表して田口が答える。
「確かにな。まあ風紀委員会って根拠を作り出してくる集団だから、どうなるかはわからんけど」
田口さん、今の新幹線早口が解ったんすか。会話成り立つんすか。
インテリ同士の交流があるであろう田口は、廊下の林田さんに向かって気さくに言葉を投げかける。
「ちな林田ー。おまえ日本史、何点やった?」
「百」
「ちっ、じゃあ自分のクラス戻っていいよ」
「ちょいちょいちょいちょい。舌打ちした? 舌打ちした?」
「してないって」
田口がまたしてもインテリ同士でいちゃつき始めるので、負けじと俺も介入する。
「林田っち。俺は六十二点」
俺はぴっかりーんとイケメンスマイルを作るものの、林田さんは目に見えてオロオロし、「え、え」というだけで返答がない。
「時舛。諦めろ、これがルッキズムの限界なんだ。いくら見た目がよくても、全ての女子から好印象を得れるわけじゃないんだ」
「クッ。ルッキズムってなんなんだよ……! 誰か解りやすく身体で表現してくれよ……!」
「いや、お前お前、お前のこと」
と田口と漫才してると。
「あ時舛君か。あれ? なんか顔変わった?」
林田さんがド天然な発言をして、クラス中の爆笑をかっさらった。
時舛氏、顔変わったわけではなく、髪変わっただけです。俺なんて眼中にない感じが無意識に出てるのが面白くて、クラス中が笑う。俺もつられて一緒に笑う。
林田さんが慌てて謝りつくしている。
「ゴメンゴメンゴメンゴメンゴメン、時舛君は全然六十二点で大丈夫だと思う、その方がみんなも安心するし補習請け負う団体いっぱいいるしゴメンゴメンゴメンゴメン」
林田さんは相変わらずの早口で釈明していた。面白いヤツ。田口の言う通り林田さんのような人はルッキズムなしで、つまりルックス関係なく皆から愛されているだろう。喋っていると何かを巻き起こすし、なんか可愛く見えてくるし。
笑いが収まると、林田さんは恥ずかしそうに自分のクラスへと戻っていく。
その入れ替わりで、今度はクラスで一番熱くてうるさい男が帰ってきた。ドタドタと慌ただしく教室に入ってくると、教壇に立ってドンと教卓をぶったたく。
なになに今度はなんなの。騒がしいクラスだよホント。
「皆さん聞いてください! 祝報です! 今までうちの時舛が、うちの紋代時舛が! 皆様に散々迷惑をかけてきましたが! いきなりパーマにしたり、朝から写真撮影会を開いて馬鹿騒ぎをしたり! 今まで本当にご迷惑をおかけしましたが!」
などと熱弁しだすのは、俺のもう一人の男友達上田。コイツの暴走は俺の手に負えることではないので放置。放置するしかない。
「本日より時舛君は、我々生徒会が補習請負と言う形で身柄を引き取ることになりました! 皆様本当にありがとうございます! 時舛君は卒業まで生徒会が面倒を見ます! 皆様ありがとうございます!」
「まてまてまてまて。補習じゃねえっての。俺は一個も赤点とってないっての」
上田の暴走モードにつき合うのはダルいのでダルツッコミ。しかし乗ってくるクラスメイト達。
「時舛君おめでとー!」
「頑張って! 生徒会なら補習も楽しいよ!」
「よっし! 補習組が楽しくなるなぁ!」
乗るな乗るなと手で収めるが、我が熱き友、上田は止まらない。
「つまり時舛! お前数学赤点だぞ! 五十六点でな! さすがに四点差は採点ミスでも覆りはしない! お前は今日から生徒会で真人間に生まれ変わるんじゃ! どわはははははは!」
「おまえ人のテストの点数を堂々と言うやつがあるかぁ!」
上田のテンションが高すぎて、こっちも本気で叫んでいた。
ああもうクラス中に笑われているではないか。上田のこの熱血真面目キャラに付き合うのは嫌なんじゃ。生徒会で補習とか、上田の言うことってギャグじゃなくて本気だから、笑ってられないんだよコッチは。
で、そのまま上田も混ざってわちゃわちゃ補習談義してると、そろそろ次の授業開始。
数学兼我らが担任教師の盛岡先生は、開口一番に告げる。
「みんな。残念なお知らせがある。時舛が六十五点で赤点回避した」
「「「「えええええーー!?」」」」
本当に悪いクラスメイト共め……。
曰く、盛岡先生はついさっきまで俺の点数を五十六点と勘違いしていたらしい。
なにはともあれ時舛、今回の春休み明けテストは全教科六十点越え。つまり予定通り補習回避です。
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