第167話 井の中の蛙、大海で君と出会う
直接会いたいと伝えても拒まれるような気がした。あの手紙は、もう会わないことを覚悟したような文面だったから。
雅の家に行くという方法もあるが、場合によっては玄関先で追い返される可能性もある。確実に会うためには、雅が訪れるであろう場所に先回りして行く必要があった。
「確実に会える場所ってどこなんだろう……」
学校で会うという選択肢がなくなったことで、直接会うハードルは跳ね上がった。
良い方法はないかと考えていると、テレビで恋愛映画が流れていることに気付く。雅の推しである潤ちゃんが主演の映画だ。
相変わらず整った顔をしている……と感心しながら見ていると、クライマックスで驚きの展開を迎えた。
潤ちゃんは旅立つヒロインに想いを告げるため空港に向かっている。そのシーンを見て、
「これだ!」
雅が日本を発つ日に空港に向かえば会えるかもしれない。ラストチャンスとも言えるが、会うためにはそこに賭けるしかない。
ただ、その作戦を決行するには雅が日本を発つ日を把握しなければならない。
どうにか出発日を知る方法はないかと考えていたところ、ある人物が脳裏を過った。
雅母だ。雅母なら確実に出発日を知っている。そして幸運なことに、雅母とは連絡先を交換していた。
突然連絡をするのは気が引けたが、躊躇っている場合ではない。千颯は急いで雅母にLIENをした。
『ご無沙汰しております。藤間千颯です。
突然のことで申し訳ないのですが、雅が日本を発つ日を教えていただけないでしょうか? 日本を発つ前にちゃんと話がしたいと思っています。』
夏に雅母と会った時は、こちらに敵意を向けているようには思えなかった。だから、きちんとお願いをすれば、応えてくれるような気がした。
予想通り、雅母は応えてくれた。千颯がLIENを送った直後に、雅母から返信があった。
『千颯くん。ご無沙汰しております。
千颯くんと別れたって聞いたときは、ほんまに驚きました。雅は千颯くんのことをいつも楽しそうに話してはったので。
親としては、残念な気持ちもありましたが、こればっかりは仕方がないことですからね。
雅が日本を発つのは3月23日です。成田発の12時の便で出発します。恐らく10時には空港に到着しているでしょう』
千颯はすぐにお礼を伝えた。
『ありがとうございます。出発の日、雅に会いに行きます』
送信してしばらくすると、雅母から返信が来た。
『千颯くん、雅と仲良くしてくれてほんまにありがとう。千颯くんと出会ってから、あの子はよう笑うようになりました。
個人的な話になって恐縮ですが、京都の狭い世界で生きてきた私は、自分の意思で何かを決めさせてもらえることがありませんでした。学校も仕事も結婚相手も、全部決められていました。
もちろんいまの生活は十分幸せですが、自由に過ごしている人らを羨ましく思う時があります。
だから子供たちには自分の意思で進むべき道を決めてほしいと思っています。
雅は自分の意思で東京に行きたいと言いました。その中で千颯くんと出会いました。
雅が外の世界に飛び出そうという意志がなければ、二人は出会えなかったのかもしれませんね。雅の勇気が二人を引き合わせたんでしょう。あの子にとって、千颯くんは特別なんやと思います。
成田で雅と会えるといいですね。最後まで後悔のないように、お気張りやす』
文面を見て、胸が熱くなった。雅母に背中を押されたような気がした。
準備は整った。あとは自分の気持ちに正直になるだけだ。
決意を固めるために、千颯はもう一人の人物にもLIENをした。
一週間以上、連絡を取っていなかった
寂しさと緊張の入り混じった感情で、千颯はメッセージを送る。
『3月23日に雅に会いに行きます。そこでちゃんと決めてきます』
待っててね、と添えようと思ったがやめておいた。そんなのは期待させてしまうだけだ。
覚悟を決めて送ったものの、愛未からの返信はいつまで経っても来なかった。既読になっていたから見てはもらえているようだけど。
愛未の心が離れてしまったのか不安になったが、そうではないように思える。ちゃんと答えを出すまで千颯との関わりを絶っているように思えた。
もう逃げることはできない。千颯はその日が来るのを静かに待っていた。
◇◇◇
ここまでをお読みいただきありがとうございます!
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「続きが気になる!」「結局どっちを選ぶの!?」と思っていただけたら、★★★で応援いただけると幸いです。
♡や応援コメントもいつもありがとうございます。
次回、ようやく決断します。
少し長めなので2話に分けて公開しますが、できれば一気に読んでいただきたいので、明日は168話と169話の【2話】まとめて更新します。
読む順番には十分にお気を付けくださいませ<(_ _)>
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