第130話 まだ離れたくなくて

※甘々注意報※


 マフラーを贈り合ってから、二人はカフェで少し遅めの昼食をとる。パスタを食べながら、千颯ちはやはこれからのことを愛未あいみに伝えた。


「これからはさ、気軽にうちに来ていいから。夕飯とか食べに来てもいいし、家に居辛い時は避難所代わりに使ってもいいよ」


 それは少し前から考えていたことだ。愛未は母親との関係が上手く行かず、家では居心地の悪さを感じている。それなら一時的にでも居場所を作ってあげたかった。


 さすがに同居の提案は軽々しくできないけど、学校終わりに夕飯を食べに来るくらいなら問題ないだろう。


 母親の颯月さつきにも愛未の事情を伝えていた。話を聞いた颯月は「そういうことなら連れてきなさい」と家に連れてくることを承諾してくれた。


「そんなの悪いよ」


 愛未は遠慮するように両手を左右に振る。さすがに余所の家に頻繁にお邪魔するのは気が引けるのだろう。


 遠慮されることは予想していた。だからこそ、千颯は事前に考えておいた誘い文句を口にした。


「これは愛未のためだけじゃなくて、俺のためでもあるんだ。愛未と少しでも一緒に居たいっていう俺の我儘だから」


 愛未は目を丸くする。それからふわりと表情を緩めた。


「ありがとう、千颯くん」


 愛未が家に来ることを承諾してくれて、千颯は安堵した。


 それからもカフェでのんびり会話をした。愛未と一緒にいると会話は途切れることがない。


 学校での出来事や家で凪にしてやられたことなどを話すと、愛未はクスクスと笑いながら楽しそうに話を聞いてくれた。


*・*・*


 夕方になってから電車に乗って、最寄り駅に向かう。


「家まで送っていくよ」


 改札を出てから、千颯はそう申し出た。駅で別れるのが名残惜しかったからだ。


「いいの?」

「うん。愛未ともっと一緒に居たいし」


 正直に理由を明かしてから、千颯はもう一度愛未の手を握った。


「私も千颯くんともう少し一緒に居たい」


 恥ずかしそうに視線を落としながらそう呟く愛未は、破壊的に可愛かった。


 普段よりも少し遅い足取りで、愛未の家まで歩く。少しでも長く愛未と一緒に居たかったけど、その時間はいつまでも続くわけではなく、あっという間にアパートまで辿り着いてしまった。


 愛未は名残惜しそうに千颯の手を離す。


「ありがとう、送ってくれて」

「ううん、全然いいよ」


 気にしないでと伝えるように小さく微笑むと、愛未は頬を赤く染めながら俯いた。


「バイバイするのが寂しいね」

「そうだね」


 それは千颯も同じ気持ちだった。明日になればすぐに会える。そんなことは分かっていたけど、寂しさは拭えなかった。


「バイバイ、千颯くん。また学校でね」


 愛未は名残惜しそうに手を振りながら、外階段を登ろうとする。その瞬間、寂しさが溢れかえって咄嗟に愛未の腕を掴んでいる自分がいた。


「どうしたの? 千颯くん」


 愛未は驚いたように目を丸くする。


 いつまでも引き留めているわけにはいかない。それならせめて、愛未のぬくもりを身体に残しておきたかった。


 こんなことを口にするのは恥ずかしくて仕方がなかったけど、自分の中に浮かんだ欲求を素直に愛未に伝えてみた。


「キスしてもいい?」


 愛未は動揺したように視線を巡らせる。頬は先ほどとは比べ物にならないほど赤く染まっていた。


 一呼吸、間を置いた後、愛未は恥じらいながらも頷いてくれた。


「いいよ」


 興奮が湧き立つ。はやる気持ちを抑えながら、愛未の手を引いてアパートの影に移動した。


 人目につかないことを確認した後、そっと壁際に誘導する。掴んだ手を壁に押し当てると、潤んだ瞳で見つめられた。


 艶のある血色のいい唇が目に留まる。そのまま引き寄せられるようにキスをした。


 柔らかくてしっとりした感触が唇に伝わる。バレンタインの時のような濃厚なキスではなく、軽く触れ合うだけのキスだった。


 一秒ほど重なった後、ゆっくりと身体を離す。軽いキスにも関わらず、心臓が激しく鼓動し、自然と息遣いが早くなっていた。


 愛未もとろんとした瞳でこちらを見つめている。キスの余韻に浸っているのだろう。


 熱を帯びた身体はこんなものでは満足できるはずもなく、さらなる快楽を求める。欲に溺れる後ろめたさを感じつつも、千颯はもう一度お願いしてみた。


「もう一回してもいい」


 驚いたように目を丸くした愛未だったが、千颯の熱を帯びた視線を感じ取ると恥じらうように頷いた。


「いいよ、何度でも」


 許可を得たところで、もう一度唇を重ねた。


 やはりと言うべきか、一度なんかでは収まらない。陽が落ちて辺りが暗くなるのを感じながら、二人は何度も口付けを交わしていた。


◇◇◇


ここまでをお読みいただきありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と思ったら★★★、「まあまあかな」「とりあえず様子見かな」と思ったら★で評価いただけると幸いです。

♡や応援コメントもいつもありがとうございます。


愛未とのデートは終始甘々な展開でした。胸やけされた方も多いでしょうが、付き合いたてなので大目に見ていただけると嬉しいです( ノ;_ _)ノ


次回から千颯たちも高校3年生になります。置き去りになっていた雅もようやく出て来ます!


作品ページ

https://kakuyomu.jp/works/16817330659490348839

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