第124話 お兄さんはダメダメです
公園の隅で友達と楽しそうに遊ぶ
「あの、弟の相手をしてくれてありがとうございます。お兄さんは、面倒見が良いんですね」
「一緒にはしゃいでいただけだよ? 面倒見が良いっていうのとは少し違うと思う」
千颯が謙遜すると、芽依は「そんなそんなっ」と首を振りながら否定していた。
話が途切れて沈黙が流れる。すると芽依は慌てたように別の話題を持ち出した。
「そういえば、
思いがけず雅の話題を出されて面食らう。雅と別れたことは芽依はまだ知らないらしい。
正直に伝えるべきかと悩んだが、下手に隠したとしても後々バレるような気がしたため、ありのままを伝えることにした。
「雅とは別れたよ」
その瞬間、芽依は目を大きく見開きながら表情を消す。それから遠慮がちに尋ねた。
「それは、どっちから別れを切り出したんですか?」
「雅から別れようって言われた」
そう答えると芽依は視線を落とす。「身を引いたってこと?」と独り言のように呟いたのは千颯の耳にも届いた。
何と答えればいいか分からず、口を
公園の隅では裕翔とその友達が楽しそうにはしゃいでいる。距離はそこまで離れていないはずなのに、なんだかとても遠くに感じた。
しばらく沈黙が続いた後、芽依は俯きながら尋ねる。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「うん」
少し間を置いた後、芽依は顔を上げながら尋ねた。
「お兄さん、いま好きな人はいますか?」
そこにいたのは、恥ずかしがり屋の芽依ではない。堂々とした眼差しで、千颯の瞳をじっと捉えていた。
その姿を目の当たりにして、はぐらかしてはいけないと直感的に察した。
千颯は真剣に考える。
好きな人。その言葉で真っ先に想い浮かんだのは、愛未だった。愛未の笑顔を思い出すと、胸の奥が温かくなった。
芽依の質問は、考えるまでもなく分かっている。千颯は芽依の瞳を真っすぐ見つめながら答えた。
「いるよ」
愛未の笑顔を思い出して、自然と口元が緩んでいることに気付く。その表情を目の当たりにした芽依は、ゆっくりと目を伏せた。
「そう、ですか……」
俯きながら言葉を噤む芽依。しばらく沈黙が続いた後、芽依は俯いた状態で尋ねた。
「それは、私ではないですよね?」
告白とも捉えられる質問に、何と答えればいいのか分からない。だけど、黙り込むということは、好きではないと認めたのと同義だった。
芽依は小さく溜息をつく。それからどこか呆れを含んだ表情で顔を上げた。
「ダメじゃないですか、お兄さん」
「え?」
思いがけない言葉をかけられて咄嗟に聞き返す。芽依は諭すように言葉を続けた。
「好きな人がいるんだったら、ちゃんとその人だけを見てあげてください。いつまでもフラフラしていてはダメですよ」
芽依の言葉は、中途半端な状況に甘んじていた自分に深く突き刺さる。もはや反論の余地もなかった。
「俺、ダメだな……」
「はい。お兄さんはダメダメです」
迷いなく即答される。あまりにきっぱり言い切るものだから、千颯は思わず苦笑した。そんな千颯に芽依は追い打ちをかける。
「今回に限った話ではありません。お兄さんはダメなところがたくさんあります。流されやすくて、子供っぽくて、すぐに他の女の子にデレデレする。私、何度お兄さんに蛙化したか分かりませんよ」
「うう……そうだよね……」
痛いところを突かれてしまった。これも反論の余地がない。芽依から何度も蛙化されていたことは、千颯だって自覚していた。
自分の情けなさに嘆いていると、芽依はそっとこちらに手を伸ばす。そのまま細い指先で千颯の髪に触れた。
「でも、ダメなところも含めて、お兄さんが大好きでした」
咄嗟に視線を向ける。芽依は、眉を下げながら穏やかに微笑んでいた。
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