第114話 大晦日に届いたメッセージ
12月31日。波瀾に満ち溢れた一年も、あと数時間で終わりを迎えようとしている。そんな中、
テレビの前を陣取っている
ふと、
(雅は京都に帰ってるんだよな……)
京都に帰った雅は、両親や
だけど同時に物寂しさにも襲われる。雅とは新学期まで会えない。そう考えると、心の中にぽっかり穴が空いたような気がした。
ちなみに
愛未の巫女姿には興味がある。きっと可愛いに違いない。
これまでの千颯だったら愛未の巫女姿で頭がいっぱいになっていたはずだが、不思議なことにいまは雅に会えない寂しさの方が上回っていた。
雅がどうしているのか気になって、ふと凪に尋ねてみる。
「雅もタイムラインで盛り上がってるの?」
テレビに雅の推しが出ているのだから、当然見ているだろう。きっと推しの尊さをSNSに書きこんでいるに違いない。
千颯が尋ねると、凪はスマホを手に取り、タイムラインを確認した。
「いやー。雅さんは何も呟いてないね。というかクリスマスイブ過ぎたあたりから更新が途絶えてる。大丈夫かな、生きてるかな」
「タイムラインで生存確認すんな」
反射的に突っ込みをするも、雅が何をしているのか分からず、がっかりしていた千颯だった。
「雅、何してるんだろう……」
心の声をうっかり漏らすと、凪から冷ややかな視線を向けられた。
「うっざっ、なんで恋する乙女モードに入ってんの?」
「うざいは言い過ぎだろ! それに乙女って……」
「そんなに気になるならLIENしてみればいいじゃん」
「まあ、そうなんだけどさ……」
こちらから連絡すれば解決することは分かっているが、何となく抵抗があった。『いま何してる?』なんてメッセージを送ったら、気になっているのがもろにバレてしまう。
意味もなくスマホの画面を、開いては閉じ、開いては閉じを繰り返していると、不意にスマホが振動した。
画面を見た瞬間、千颯は目を見開く。なんと雅からメッセージが届いていた。
千颯は姿勢を正して、メッセージを確認する。
『いま何してはるん?』
それはまさに千颯が聞きたくて仕方がなかった内容だ。千颯は瞬時に返信する。
『家でテレビ見てた。雅は?』
『うちも同じや。推しが出とるからね』
ふとテレビに視線を向けると、雅の推しの潤ちゃんが司会者からの質問に笑顔で答えていた。相変わらずキラキラしている。この笑顔を雅も見て、ときめいているのと思うと無性に腹が立った。
(何アイドルと張り合ってるんだよ……)
身のほど知らずにもほどがある、と情けなくなった。
だけど、雅は推しがテレビに映っているにも関わらず、千颯とLIENをしている。その事実に気付くと、ちょっとだけ勝ったような気がした。
『凪もテレビに齧りついてるよ』
『そやろな~。タイムラインで大騒ぎしとるもん(¯―¯٥)』
『現実では大人しくしてると思ったら、ネットで大騒ぎしていたのか』
『そんなんオタクあるあるやで』
『あるあるなんだ』
『あと、兄が恋する乙女モードでウケるって呟いてた』
『リアルタイムで俺の痴態が暴露されてる!?』
テレビに釘付けになりながらもスマホを弄る凪を、恨めしそうに睨みつけた。
『雅はいいの? 推しが出てるのに俺なんかとLIENして』
するとそれまでポンポンと続いていたやりとりが途絶える。余計な事を言ったかと焦るも、いまさら取り消すことはできなかった。
雅からの返信が途絶えたことで、千颯はスマホを手放す。そしてソファーにうつ伏せでダイブをした。
テレビからは虎の子ファイブの歌が流れる。きっと雅も今頃聞いているのだろう。千颯はソファーに顔を埋めながら歌が終わるのを待った。
歌が終わったと同時に、スマホが振動する。千颯は急いでソファーから起き上がり、スマホを手に取った。
予想していた通り、雅から返信が届いていた。だけどメッセージの内容は予想外のものだった。
『千颯くん、ゲームに勝ったら何でもお願いできるっている約束、覚えとるよね?』
雅が言っているのは、クリスマス会でのゲームのことだろう。あの日、雅は千颯との勝負に勝った。だから何でもひとつ千颯に命令できる権利がある。
『もちろん覚えてるよ』
『そのお願い、いましてもええ?』
『いいけど』
このタイミングで一体何をお願いされるのかと首を傾げていると、雅から端的な文章が送られてきた。
『会いたい』
「え……」
千颯は思わず声を漏らす。まさか会いたいなんて言われるとは思わなかった。
驚きは次第に嬉しさに変わっていく。だけどすぐに現実的なことも思い浮かんだ。
『さすがにいまから京都に行くのはきついよ』
いまの時刻は19時過ぎ。新幹線に乗って行けなくはないが、それをするのは勇気がいる。千颯が戸惑っていると、雅は意外な事実を明かした。
『京都に帰るっていうのは嘘。本当は東京におる』
その文面を見て、千颯は再び驚く。どうしてそんな嘘をついたのかと疑問に思った。
とはいえ、東京にいるのであれば会える。はやる気持ちを抑えながら、千颯はメッセージを返した。
『それなら会えるよ。いまから出ればいい?』
『いまやない。明日の朝に駅で待ち合わせよ』
『朝って何時?』
『五時』
「五時!?」
千颯は思わず声を上げる。朝五時に待ち合わせというのは随分早すぎる。
だけどできないことはない。雅もきっと何か意図があるのだろうし、素直に従った。
『わかった。五時に雅の最寄り駅で待ってる』
そこでメッセージは途切れた。
五時に待ち合わせということは、遅くとも四時には起きて出掛ける準備をしなければならない。徹夜で行くというもの手だが、明日何が起こるのか分からない以上、できるだけ体力を回復させた状態で行きたかった。
いまから何時間寝られるのか計算しながら千颯は立ち上がる。
「俺、もう寝る」
ぽかんとする家族を横目に、千颯は部屋に戻った。
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