第111話 レースゲームでバトル

 しばらくはゲームの操作に慣れるために、みやびなぎ愛未あいみ芽依めいの4人でプレイをしていた。


 コントローラーの都合上、ゲームは一度に4人しかできない。千颯は女子4人がキャッキャと楽しそうにコントローラーを握る姿を眺めていた。


 数回コースを回っただけで、彼女たちの腕前を把握した。


 雅は案の定下手くそで、壁に激突したり崖から転落したりと満身創痍になりながら走っている。コーナーを回るたびに身体が一緒に動いているのは見ていて笑えた。


 そして雅と似たような走りをする人物がもう一人いる。愛未だ。


「愛未ー。それ逆走だよー」

「え? 嘘! やだ、これどうやって戻すの?」


 愛未はワタワタとしながらコントローラーと画面を交互に見ていた。愛未もゲームに慣れていないのか、破滅的に下手くそだった。


 そして意外なことに、芽依はそこそこ上手だった。あの二人が下手すぎるというのもあるが、普通に走れている。アイテムを取ってタイミングよく使う余裕もあった。


「芽依ちゃん、ゲーム上手いんだね。驚いた」


 あまりゲームは得意でないだろうと勝手に想像していたから、この展開は意外だった。


「凪ちゃんと比べたら全然ですが、このゲームはうちにもあるのでそれなりにプレイできますよ」

「そうなんだ。ゲームをするタイプには見えなかったから意外」

「小学生の弟にせがまれて一緒にやることもあるので」


 芽依は照れ笑いをしながら打ち明けた。


 芽依に小学生の弟がいるというのは初耳だった。てっきり一人っ子だと思っていたから。


 だけど改めて聞くと、納得する節もある。あの喧しい凪と友達で居てくれるのも、普段から小学生を相手にしているからだろう。つまり、凪は小学生と同等に見られているということになる。


 そして凪は言うまでもなく上手い。このメンバーの中ではぶっちぎりだった。あまりに手ごたえがなさすぎるせいか、1位になってもそこまで喜んで見せることはなかったが。


 そんなこんなで操作性に慣れるための練習が続いた。何度かプレイしていると、雅は少しずつコツを掴んできた。真剣にコントローラーを握りしめる雅を見ていると、つい応援したくなる。


「カーブするときはRボタンを長押しして。そうすればドリフトできるから」

「ドリフト?」

「減速しないで曲がれるようになる」

「なるほど」


 気付けば雅にコツを教えていた。敵に塩を送っているような状態だが、まあいいだろう。


 みんながゲームに慣れてきた頃、ようやく勝負が開始された。


 チーム分けは腕前を考慮して、雅・凪ペアVS千颯・愛未ペアになった。合計した順位が低い方の勝ちというルールにした。


 人数の都合上、芽依には見学してもらうことにした。除け者にするようで心苦しかたったが、芽依本人はそこまで気にしていなかった。


「みなさん頑張ってくださいね!」


 芽依サンタは勝利の女神のように微笑んでいる。その笑顔に和みながらも、千颯はコントローラーを握った。


 スタートの合図となるランプが点滅した後、レースが始まった。


 予想していた通り、他の走者をぶち抜いて、千颯と凪が先頭に躍り出る。しばらくは様子見ということもあり、お互い妨害し合うことはなかった。


 ふと、愛未と雅の様子を見ると、コンピューターに埋もれながらもなんとか走行している。はじめのように転落したり、逆走したりということはなかった。


 コースを一周した時の順位は、1位千颯、2位凪、3位・4位とコンピュータ―が続き、5位愛未、6位雅となっていた。まだまだ勝負は分からない。


 先頭争いをする千颯と凪は、後続とはかなり距離が離れていたため、他の走者に邪魔されることはない。だけど3位以下はどうなるか分からなかった。


 2周目が始まると、アイテムをゲットする地点に到達する。千颯はゲットしたアイテムで凪に攻撃を仕掛けたが、あっさりとかわされた。


 そして後続の雅と愛未もアイテムをゲットする。そこで雅がペンキのアイテムをゲットした。


 このアイテムを使うと、自分より上位のプレイヤーの画面にペンキが付いて見えずらくなる。コースを知り尽くしている千颯と凪にはどうってことない攻撃だったが、愛未には効果てきめんだった。


「ええー! 待って! この細い道でそれは無理!」

「愛未! そこ落ちるから気を付けて!」


 千颯の助言も虚しく、愛未は崖から転落していった。


「ごめん、千颯くん……」

「大丈夫。まだ巻き返せるから」


 そうは言ったが、転落から復帰したタイムロスはかなり大きい。戻ってきた時には最下位になっていた。


 一方雅は、順位をキープしながら着実に進んでいる。千颯・愛未ペアは追い込まれていた。


 そして迎えた最終ラップ。相変わらず、先頭争いは千颯と凪が繰り広げていた。


(ここで負けるわけにはいかない……)


 そんな思いから、アイテムで凪を妨害した。不意を突かれた凪は、攻撃をもろにくらって先頭から千切れていく。その様子を見て、千颯はにやりと笑った。


 このまま気を抜かなければ勝てると思ったのも束の間、凪が攻撃を仕掛けてきた。物理的に。


「くらえ! ダイレクトアタック!」


 なんとも卑怯なことに、凪は千颯の脚を蹴り始めた。痛くはないが、集中力が削がれる。


「おいふざけんな! お前は昔から負けそうになるとこうやって……。レフリー、こいつ反則です!」


 千颯は咄嗟に芽依に視線を送る。


「レ、レフリーって、私のこと言ってます?」

「うん。芽依ちゃん、こいつの動きを封じて」

「はい! 分かりました!」


 芽依は凪に近付き、脚の動きを封じる。


「凪ちゃん、蹴るのは反則だよー」

「うわー、やめろ芽依ちゃん!」


 凪はジタバタと暴れながら抵抗をする。その動きを封じ込めようと、芽依もその場で四つん這いになって凪の足を押さえた。


 何をやっているんだ、と呆れながらも暴れる二人に視線を向けると、ハッとよろしくない事態に気付いた。


 芽依は凪を押さえるのに必死なのか、自分が短いスカートを履いていることをすっかり忘れている。四つん這いの状態ではスカートの中までしっかり見えてしまった。


 白。そう認識した瞬間、千颯は慌てて視線を落とした。


「あ……」


 油断したところで、千颯はバナナの皮に滑った。


◇◇◇


ここまでお読みいただきありがとうございます!


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異世界を舞台にしたあやかしファンタジーになっているので、お時間が許す方はぜひそちらも読んでいただけると幸いです!

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