第109話 サンタは誰のもとに?
しばらくすると玄関のドアが開いて一気に騒がしくなった。楽しそうにお喋りをしながら、三人の美少女がリビングにやってくる。
「たっだいまー!
大きな袋を持った
「慎重に運んだから大丈夫だよ」
箱を開けてケーキの無事を確認すると、三人はホッとしたように笑った。
「そういえば、雅と凪達は一緒だったんだね。別々で買い出しに行ったんでしょ?」
「そうだけど、帰り道でバッタリ会ったんだよ」
「ほんまにタイミング良かったなぁ」
凪と雅は「ねー」と顔を見合わせながら笑っている。その光景はなんだか微笑ましい。目を細めながら二人を眺めていると、
「そういえば、凪ちゃん達は何を買ってきたの?」
パーティーグッズを買いに行くとだけ宣言した凪が何を買ってきたのかは不明だった。袋のサイズが大きいことから、クラッカーや風船などの小物だけではないだろう。
ふと、芽依に視線を向けると苦笑いしていた。その反応で、ろくでもないものを買ってきたのだろうと理解した。
身構える千颯とは対照的に、凪は勿体つけるようにニマニマ笑う。それから高らかに袋の中身を披露した。
「じゃじゃーん! サンタの衣装を買ってきました! 予算の都合上、一着しか買えなかったけどねっ」
やっぱりろくでもないものだった。その可能性も一瞬過ったが、まさか本当に買ってくるとは……。
凪はいそいそと袋を開けて、サンタ服を見せびらかす。赤のケープとワンピースのセットだった。ケープとスカートの裾には雪のような白いファーがついている。可愛いデザインではあるが、これを着るのは勇気がいるだろう。
「それ誰が着るんだよ? お前が着んの?」
冷ややかな視線で凪に尋ねると、凪は首を横に振りながらニマニマ笑った。
「それをこれから決めるんだよ。じゃんけんで」
凪の言葉に真っ先に反応したのは雅だった。
「待って? そんなん聞いとらんよ! そんな短いスカートの服、うちは着られへん!」
「いやいや! 雅さんは絶対に似合う! 絶対可愛いサンタさんになる」
「無理やって! 勘弁して! 愛未ちゃんもそう思うやろ?」
雅は同志を求めて愛未に話を振る。愛未も困ったように苦笑いをしていたが、チラッと千颯に視線を向けた後、雅の期待を打ち砕く発言をした。
「確かに恥ずかしいけど、千颯くんが喜ぶなら着てもいいかな……なんて……」
「え?」
予想外の言葉に千颯は固まる。愛未の表情を伺うと、恥ずかしそうに頬を赤く染めながらもどこか挑発的に微笑んでいた。
その反応を見て千颯の考えが変わった。
さっきまではコスプレなんて浮かれたことを……と呆れてていたが、サンタの格好をした美少女を拝めるというのは悪くない。いや、むしろ喜ばしいことだ。
正直、このメンバーだったら誰が着ても似合うだろう。千颯はにやけ顔を隠すかのようにスッと視線を逸らした。
「はあ……勝手にやってください」
クールを装いながら、千颯は椅子から立ち上がる。これから着替えが始まるのなら、男は邪魔でしかないだろう。
気を利かせて立ち去ろうとした千颯だったが、凪から肩を掴まれて逃亡を阻止される。
「どこいくの? これからサンタ服を着る人をじゃんけんで決めるんだけど」
「なら、俺は邪魔でしょ」
「なんで自分は関係ありませんって顔してんの?」
「はあ?」
意味が分からない。目をぱちぱちと瞬かせていると、凪が悪魔のような言葉を放った。
「千颯もじゃんけんするんだよ。で、負けたらサンタ服を着るの」
時が止まった。まさか男である自分も候補者の一人としてカウントされているとは思わなかった。狂っているとしか言いようがない。
凪の衝撃発言を聞いた、女性陣は吹き出すように笑い始める。
「千颯くんが着るん? 想像しただけでもお腹捩れる」
「でも意外とアリかもよ。女装したら似合うかも」
「お兄さんのサンタ姿、ちょっと見てみたいかもです」
雅、愛未、芽依は意外にも乗り気だった。その反応で余計に恐ろしくなる。
「いやいや、俺が着たら事故でしょ! その服、普通に女の子用だし」
考えを改めてもらおうとする千颯だったが、女性陣はどんどん話を進めていく。
「千颯くんって肌キレイやし、メイクしてウィッグ付ければ化けるんやない?」
「うんうん。千颯は背もそんなに高い方じゃないし、サイズ的にも問題ないですよ」
「意外と男の娘で通用するかも?」
「可愛いお兄さんも見てみたいです」
目の前でおぞましい会話が繰り広げられている。千颯はゾッと身震いをした。
「じょ、冗談じゃないよ。女装なんて絶対に嫌だ」
逃げるように後退りをする千颯に、四人はにっこり笑いかける。
「それは、じゃんけんの結果次第でしょ」
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