第83話 明かされた真実

 由紀ゆきと和解できた後、彼女は高校を辞めた理由を明かした。


「高校辞めたのはみやびのせいじゃないから。やりたいことがあったから辞めただけ」

「やりたいこと?」


 雅は首を傾げる。すると由紀は雅の瞳を真っすぐ見据えながら伝えた。


「前にも話したけどさ、私将来は美容系の仕事に就きたいと思ってるんだ。だからヘアメイクとかネイルについて学べる学校に編入したの」


 そこまで聞くと、雅は腑に落ちたように頷いた。


「そうやったんや……」


 転校の理由が前向きな理由だったと知り、雅は肩の力が抜けた。由紀は口元に笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「もともとあの学校は私には合っていなかったからね。受かったからただ通っていただけ。でも、雅と関わるようになって自分が本当にやりたいことに気付いたんだ」

「うちと?」


 雅は意外そうに目を丸くする。そんな雅に、由紀は穏やかに笑いかけた。


「雅がどんどん可愛くなっていくのを見て、自分が本当にやりたいのはこれだって気付いたんだ。いままでは漠然とした思いだったけど、雅と関わってはっきりと自覚した。それに……」

「それに?」


 由紀は言いよどんでいたが、雅に促されたことで言葉を続けた。


「雅が背中を押してくれたから。私が夢を打ち明けた時『由紀ならなれる。うちが保証する』って言ってくれたでしょ。それで決心がついたんだ。だから親と先生を説得して、別の学校に通うことを認めてもらった。本当はね、雅と喧嘩する前から転校することは決まってたんだよ」

「全然気付かなかった……」


 まさか自分がきっかけだったなんて想像もしていなかったのだろう。驚く雅に、由紀は優しく声をかける。


「だからさ、自分のせいでとか責めなくてもいいから」

「もしかして由紀、うちのこと心配してくれたん?」

「何も言わずに転校したからね。責任感じさせちゃっているのかもとは思っていたよ。だけどもう、そういうのはいらないから」

「そっか」


 雅は納得するように何度も頷く。それからいまにも泣きしそうな潤んだ瞳で由紀に伝えた。


「話してくれてありがとう。由紀が将来のために頑張ってるって知って安心した」


 それから雅は由紀の手を取って、真剣な表情で向き合う。


「うち、由紀の夢を応援する」


 熱のこもった声で激励されると、由紀は驚きながらも穏やかに微笑んだ。


「うん、ありがとう」



 それからも二人は「夏休み中は京都におるからいっぱい遊ぼうね」「うん、そうだね」なんて楽しそうに会話をしていた。


 仲良く笑い合う二人を、千颯ちはやはしみじみと眺める。


(和解できて何よりだ。だけど二人とも俺の存在なんて忘れてるんだろうな。別にいいけどさ……)


 おしゃべりに夢中になる少女たちの前では、千颯はただのモブAになるしかなかった。


 ひとしきり話してそろそろ帰ろうといったタイミングで、雅と目が合った。雅は「しまった」と言いたげに顔を引き攣らせる。


「ごめん千颯くん! 放置して」

「いいよ。それより和解できて良かったね」

「うん。千颯くんが背中を押してくれたおやげや。ほんまにありがとう」


 嬉しそうに微笑む雅を見ていると、なんだか誇らしい気分になった。


*・*・*


 それから3人は電車に乗り込み、京都駅で由紀と別れることになった。


「じゃあね、雅。また近いうちに連絡する」

「うん。うちも連絡するわぁ」


 仲良く別れの挨拶をする二人を眺めていると、不意に由紀は千颯に視線を向けた。


「あ、そうだ。彼氏くんに伝えておきたいことがある」

「え? 俺に?」


 何を伝えられるのか分からず身構えていると、由紀が千颯の目の前までやって来た。


 由紀はにやりと意味深な笑みを浮かべた後、ユニスタでした時と同じように千颯の耳元で囁いた。


「私さ、高一の時、雅のことが好きだったんだよね」

「なっ……!」


 あまりに衝撃的な告白に、千颯は大声を出してしまった。


(それってつまり、女の子同士の百合的な……)


 頭がクラクラしてくる。千颯が放心していると、由紀は王子様のような端正な顔で、挑発的に微笑んだ。


「だから私と君はライバルってわけ」


 話が終わると、由紀はパッと千颯から離れる。そのままひらひらと手を振りながら改札に向かって歩き出した。


「じゃあね、雅」

「ほなな! 由紀」


 雅は由紀の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 完全に見えなくなると、雅は先ほどのやりとりについて尋ねる。


「由紀から何を言われたん?」

「え?」


 どう考えても正直に答えるべきではないだろう。千颯は咄嗟にごまかした。


「大したことじゃないよ。雅と仲良くねとかそんな感じっ」

「ふーん、ほんならええけど」


 雅はそれ以上追及することなく、納得してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る