第69話 テーマパークに到着

 翌日、千颯ちはやたちは電車を乗り継いでユニスタの最寄り駅に到着した。


 当初の予定では、今日の昼頃に東京に戻る予定だったが、思いがけずユニスタのチケットを貰ったため夕方に帰ることにした。


 大きい荷物をコインロッカーに預けて身軽になってから、ユニスタへ向かう。

 入場ゲートは、夏休みということもあり人で溢れかえっていた。


 家族連れやカップル、女子グループが大半だ。女子4人、男子1人のグループなんて、ここ以外にはいやしない。あらためて、自分が異質な状況に置かれていることに気が付いた。


 浮足立つ女子達の後ろを大人しくついて行く千颯。女子達の中でもなぎのテンションは異様に高かった。


「ひゃー、楽しみ! どうします? みんなでお揃いの耳とか付けちゃいます?」

「ここもそういう感じなんだね……」

「分からない! けど、芽依めいちゃんは似合うと思うなー。ひつじの耳とか」

「そんなキャラクター、ここにはいないよ!」

「んでー、みやびさんはうさぎで、愛未あいみさんは猫かなー」

「うち、うさぎなんや……。愛未ちゃんが猫っていうのは分かるけど」

「分かるんだ……。私そんなに猫っぽい?」


 千颯は心の中で大きく頷いた。


 動物に例えるなら、愛未は間違いなく猫だ。気まぐれで何を考えているか分からないところが猫にそっくりだ。


 ふと、愛未が猫耳を付けている姿を想像してしまう。ぴょこんと可愛い猫耳を付けた愛未が、小悪魔的な笑顔で擦り寄ってくる姿を想像すると、顔が熱くなった。


(何を想像しているんだ、俺は!)


 いかがわしい妄想を振り払っているうちにも、話はどんどん進んでいく。


「そんなら凪ちゃんは犬やな。耳が垂れたわんちゃん」

「ダックスフンドとかですよね! たしかにぽいかもー」


 凪が犬というのは納得だ。落ち着きがなく、興味のままにいろんなものに飛びつく姿は犬そっくりだ。


 そんなことを考えていると、愛未が振り返ってこちらを見た。


「千颯くんはなんだろうね?」

「え? 俺?」


 唐突に話題が振られて焦る。

 愛未の言葉をきっかけに、他の面々も千颯に見合う動物を考え始めた。


「えー、なんやろなー」

「お兄さんに似合う動物……。難しいですね……」


 うーんと頭を悩ませる中、凪がにやりと馬鹿にするように笑った。


「千颯も犬ですよ。いろんな意味で」

「おいそれどういう意味だ」


 咄嗟に突っ込んだが、他のメンバーは「たしかにー」と納得していた。まったく不本意な話である。


*・*・*


 いざ入場すると、耳のことなんてすっかり忘れてアトラクションに夢中になった。


「わー! 何から乗ります? どうします?」


 凪は目を輝かせながらうずうずしていた。


 はしゃぎたくなる気持ちも分かる。千颯も表面上は落ち着いて見せているが、内心ではワクワクしていた。多分、雅達がいなければ、凪と一緒になってはしゃいでいただろう。


 千颯は浮足立つ気持ちを抑えながら、入口で貰った園内マップを広げる。ジェットコースター、コーヒーカップ、ゴーカートといった定番の乗り物のほかに、3D技術を使ったライドも複数あった。これはどこから攻略すべきか迷う。


「とりあえず、あんまり混んでなさそうなところから行こかぁ」


 雅の提案に一同は頷いた。


 1つ目は待ち時間が40分ほどのライドを選んだ。人気ゲームのキャラクターの背中に乗りながら、屋内を巡る比較的穏やかな乗り物だ。


 1つのライドに乗れる人数は2人。5人というのはどうにも中途半端だった。必然的に一人余ってしまう。


 順番が迫ってきて二人ずつ列に並ぶよう誘導されると、千颯は空気を読んで一人で列に並んだ。すると凪が、千颯の腕を引っ張り雅の隣に連れていく。


「ほら、二人はカップルなんだから一緒に乗って!」

「いやでも……」

「大丈夫! 私は一人でも十分楽しめるから!」


 ニマニマ笑いながらそう告げると、凪は自分から一人で列に並んだ。


 面白がられているのは癪だったが、凪が自分から席を譲ったことにはちょっと感心した。妹の成長を感じられて、兄としては感慨深い気持ちになった。


「それじゃあ、お隣失礼します」

「なんやの? その他人行儀な言い方」


 わざとらしく低姿勢な態度で振舞う千颯を見て、雅は笑いながらツッコミを入れた。


 それからキャストに案内されて、千颯たちはライドに乗り込む。すると二人乗りの座席が思った以上に狭いことに気付いた。


 安全バーを下げると、肩や腰が密着する。それだけで妙に意識してしまった。


 同性の友達や恋人だったら、そこまで気にならないのかもしれない。だけど付き合っているわけではない男女にとっては、この距離感は異常だ。


 雅も落ち着きがなさそうに視線を巡らせている。


「狭いなぁ」

「そうだね。これは大人二人で乗るのはきついかも」

「まあ、乗れへんことはないけどな」


 気まずい空気を感じながら、お互い視線を逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る