第29話 仲のいい二人
教室では
「相良さんと木崎さんって、最近仲いいよな」
「美少女同士が仲良くしてるのって目の保養だよな」
「二人とも楽しそう。一体何の話をしてるんだろうな」
クラスメイトは尊いものを拝むような視線を送っていた。
ここ最近、雅と愛未の仲は急速に縮まった。以前のようなギスギスした雰囲気は一切感じさせない。本当に二人は友達になったようだ。
なんで急に仲良くなったのかは、
もしかしたら千颯の知らない場所で、二人が距離を縮めるきっかけがあったのかもしれない。
そんなことを思いながら二人を見つめていると、不意に雅と目が合った。千颯の視線に気付いた雅は、にっこり微笑みながら小さく手を振ってきた。
可愛い。あまりの可愛さに、千颯の表情は一気に緩んだ。
そのやりとりを見た男子生徒が、千颯の首に腕を回した。
「羨ましい! このクソリア充がっ!」
口調は攻撃的だが、態度はどこかお茶らけている。軽いいじりと判断した千颯は、おどけるように笑って見せた。
「俺には勿体なさすぎる彼女だよ」
自慢せずに謙虚に振舞っていれば、過度に攻撃されることはない。この数週間でクラスメイトを敵に回さない立ち回りも覚えた。
偽とはいえ、クラス一の美少女を彼女にするというのは、意外と気を遣うものだ。
クラスメイトからの揶揄いを受け流していると、始業を知らせるチャイムが鳴った。
*・*・*
昼休み。雅と愛未に誘われて、中庭のベンチでお弁当を食べることになった。
雅は相変わらず手の込んだ和風弁当を広げている。その隣では愛未もオムライスの入ったお弁当を広げていた。
「雅ちゃんは相変わらず料理上手だね。クオリティ高すぎ」
「そんなことあらへんよぉ。愛未ちゃんのオムライスも美味しそうやねぇ」
「私なんてまだまだだよ。最近料理を始めたばかりだし」
「もしかして、千颯くんに食べてほしいから料理始めたん?」
「バレた? やっぱり雅ちゃんには隠し事はできないなー」
和やかな雰囲気でお弁当を囲む雅と愛未。そんな二人の間で千颯は小さくなっていた。
(これ、俺がいない方がいいんじゃないか?)
千颯を仲介せずとも二人は仲良く会話をしている。ガールズトークが始まったら、千颯が会話に割って入る隙はなかった。
できるだけ存在感を消しながらお弁当を食べていると、雅に話を振られた。
「どしたん、千颯くん? 随分大人しいなぁ」
「いや、二人が思った以上に打ち解けていたから、俺は邪魔かなって……」
「何言うとるん? うちと愛未ちゃんが仲良くなれたのは、千颯くんのおかげやで?」
「いやいや、俺は何もしてないよ」
実際に千颯は何もしていない。気付いたら二人が打ち解けていたから、千颯のおかげと言われてもピンとこなかった。
「雅ちゃんの言う通りだよ。千颯くんとの一件があったから、雅ちゃんともこうして仲良くなれたんだよ」
「うちも愛未ちゃんも外面は良いけど、お腹の中は真っ黒やからな。そういう意味では似たもの同士なのかも」
「あはは! 言えてるねー」
二人はケラケラと笑っていた。
千颯の知らぬ間に二人の間で同盟が結ばれていたようだ。雅の言葉を借りるなら、腹黒同盟とでもいうべきか。
腑に落ちないが、千颯がとやかく言うことではない。仲良きことは美しきかな。邪推はせずに、温かく二人を見守ることにした。
ペットボトルのお茶を飲みながら二人のやりとりを見守っていると、不意に愛未が突拍子のない提案をした。
「そうだ、千颯くん。今日放課後デートしない?」
「ぐふっ! デ、デート?」
千颯は飲みかけのお茶を吹き出しそうになりながら、愛未の言葉を繰り返す。
愛未は動揺する千颯の心を見透かしたように、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。
「そう、デート。二人っきりで」
愛未の言葉で千颯はさらにパニックになる。
(二人っきりでデートなんて、愛未は何を考えているんだ?)
助けを求めるように雅に視線を向けると、何食わぬ顔でお弁当を食べていた。
千颯が視線を送り続けるとようやく気付いたようで、「なにか?」と言いたげに首をかしげた。
「ん? もしかして、うちの許可を取ろうとしとるん?」
「だって、一応彼女だし」
「別にええでー。デート楽しんできてなぁ」
あっさりとデートの許可を出す雅。その軽さに拍子抜けしてしまった。
雅の寛大とも受け取れる反応を目の当たりにした愛未は、嬉しそうに両手を合わせた。
「さすが雅ちゃん。それじゃあ今日は、千颯くんを借りるね」
こうして千颯は、愛未にレンタルされることになった。
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