第27話 末永くお幸せに
「私ね、気付いたの。愛人ポジだったら蛙化しないってことに」
「「は?」」
唐突な
この状況を説明するには、15分前に遡る必要がある。
愛未と雅の直接対決を終えた翌日。午前中の授業を終えたタイミングで、愛未は「話したいことがある」と告げて、千颯と雅を中庭に連れ出した。
ベンチに並んで三人でお弁当を広げた時に発した言葉が、冒頭のアレだ。
正直、前段階を説明しても理解に苦しむ内容だった。
固まる二人を横目に、愛未は自らの心境を語る。
「千颯くんと付き合うのは、まだちょっと不安がある。だけどね、自分が二番だって割り切れば、気持ち悪いって感じないことに気付いたの。千颯くんは私の身体に興味があって近付いてきた。そう考えれば、千颯くんから好かれている理由も説明できる」
最後に「私って天才でしょ?」と付け加えて、愛未は誇らしげに微笑んだ。
一方、千颯と雅は目元に影を落として愕然とする。まさかこんな解決策を提示してくるとは思わなかった。
「女心って複雑すぎない?」
千颯は声を潜めて雅に耳打ちする。すると雅はぶんぶんと首を左右に振った。
「こんなんうちも理解できひん!」
さすがの雅も、この話には共感できないようだった。
呆然とする千颯の手を、愛未がサッと取る。
「これからは愛人としてよろしくお願いします」
突然手を握られた千颯は、しどろもどろになる。
「ええっと、よろしく? なのか?」
「そこでよろしくされたら、愛人を引き受けることになるでー?」
「それは倫理的にどうなんだろう?」
「うちは構わんよー、それで愛未ちゃんが納得できるなら」
「さすが雅ちゃん、懐が大きい! 雅ちゃんさえよければ、千颯くんの初めては私が引き受けるよ。多少は経験があったほうが、いろいろと都合がいいでしょ?」
「俺の初めてって、どういう……」
「ああ、どうぞご自由に」
「ちょっと雅!? 俺の扱い軽くない? 仮にも彼女なのに!」
「うち、婚前交渉はしない主義やから」
「身持ち硬っ! っていうか、俺の貞操を軽々しく売り渡さないで!」
「知らんがな。自分の貞操くらい自分で守りやぁ」
「裏切り者!」
あっさりと愛未からの愛人契約を受け入れる雅に、千颯は愕然とする。
普通、自分の彼氏を愛人にしたいなんていう人間が現れたら、全力で止めにかかるだろう。どう考えても修羅場は回避できない。
だけど雅は、本当の彼女ではない。形式だけの偽彼女だ。
だから千颯に対しては、あまり執着がない。千颯と愛未の距離が縮まろうが、勝手にやってくださいという話なのだろう。
揉める千颯と雅を前にして、愛未が仲裁に入る。
「二人とも喧嘩しないで! 二人に別れられたら愛人っていう関係が成立しないんだから!」
「ああ、確かにせやなぁ」
雅はうんうんと頷きながら納得した。その反応を見て、愛未はにっこりと妖艶な笑みを浮かべた。
「二人とも、これからも末永くお幸せに」
こうして雅は偽彼女を続行することになった。
いつまでと聞かれれば、愛未の気が済むまでとしか答えようがない。愛未の蛙化現象が治って、千颯との関係を変えたいと望んだ瞬間こそが、本当の意味でのエンディングだ。
蛙化現象はいずれ治る。
自己肯定感を高め、恋愛への耐性を付ければ、いつか克服できるらしい。そのために愛人になるというのは、どこか間違っている気はするが……。
だけど愛人になることで愛未が前に進めるなら、引き受けてもいいと思った千颯だった。
それに千颯自身、まだ愛未に未練がある。もしかしたら今後、愛未の気持ちに変化が現れて、愛人から彼女に昇格したいと願う日来るかもしれない。それは千颯にとっても喜ばしいことだった。
そのためにも、雅にはもう少し協力してもらう必要がある。
「雅、これからも迷惑かけるけど、大丈夫?」
そう尋ねると、雅は深々と溜息をついた。
「しゃあないわぁ」
やれやれと両手を仰いで首を振る。
「ええで、うちは一応千颯くんの彼女やから」
そう宣言する雅は、どこか楽しそうに見えた。
◇◇◇
ここまでお読みいただきありがとうございます!
第一部はここで終了となります。現在、第二部を制作中なのでストックが溜まり次第公開します。
第二部では雅や愛未との関係を深めつつ、新キャラも加わってさらにパワーアップしていきます。再スタートまでしばしお待ちいただけると幸いです。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら★で感想をお聞かせいただけると幸いです。
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