第21話 サプライズプレゼント

 みやび千颯ちはやの家で夕食を食べるになることになった。


 料理上手な雅に、千颯の切って焼いただけの料理を出すのは忍びなかったが、雅はニコニコしながら美味しそうに食べてくれた。


「千颯くん、料理できるなんてすごいなぁ」

「まあ、これくらいはね」

「イマドキ料理もできない男はクズですよ。千颯はギリ合格」

「褒めるか貶すかどっちかにしろ」

「じゃあ貶す!」

「おい!」

「あはは! ほんまに仲ええなぁ」


 千颯となぎのやりとりを見て雅が笑う。そんなやりとりを繰り返しながら、和やかな空気のまま時間が過ぎていった。


 八時過ぎになると、雅は荷物をまとめる。


「じゃあうちはそろそろ。夕飯までご馳走になって悪いなぁ」

「いいって、俺が誘ったんだし。それより家まで送ってくよ」

「そんな気い使わんでもええよぉ。時間も遅いし」

「遅いから送ってくんだよ」


 雅の返事を待たず、千颯は玄関で靴を履いた。驚いた表情をしていた雅だったが、千颯が本当に送っていく気だと分かると頬を緩めた。


「優しいんやねぇ。千颯くんは」


 電車を乗り継いで、雅の最寄り駅に着く。「駅まででええよぉ」と遠慮していた雅だったが、心配だったから家まで送っていくと告げて千颯も改札を出た。


 駅前の繁華街を抜けると、静かな住宅街が広がる。灯りに包まれた繁華街では気付かなかったが、住宅街に入ると満月が浮かんでいることに気がついた。


「月が綺麗だね」


 夜空を見上げながらしみじみと感想を伝えると、雅はぱちぱちと瞬きをしながら千颯を見た。


 だけどそれはほんの一瞬で、すぐにほんわかとした笑顔を浮かべた。


「ほんまやねぇ」


 千颯の真似をするように、雅も夜空を見上げながらゆっくり歩いた。


「うち、ここやから。送ってくれて助かったわぁ」

「ここって……タワマンじゃん……」


 目の前に現れたのは、見上げると首が痛くなりそうなほどのタワマンだった。まるで高級ホテルのような豪華なエントランス。セキュリティーも厳重に見えた。


 想像以上に立派なお宅で、千颯は呆気にとられた。


「とんでもない金持ちじゃん」


 心の声がそのまま漏れると、雅は肩を竦めて笑った。


「そんなことないって。うちは賃貸やし」


 賃貸だとしても凄いことには変わりない。

 クラスメイトを魅了する雅の上品な振る舞いは、富裕層特有のもとであることを思い知らされた。


「ほななぁ、千颯くん、また明日」


 雅はひらひらと手を振る。呆気に取られていた千颯だったが、エントランスに入ろうとする雅を見て、大事なことを思い出した。


「待って、雅」

「ん? どしたん?」


 こくりと首を傾げる雅に、千颯は鞄から紙袋を取り出した。


「これ、あげる」

「えー、なになに?」


 雅は目を見開きながら紙袋を受け取る。中を覗くと、「わぁぁ」と感嘆が漏れた。


「ペンギンさん、なんでここに?」


 千颯が渡したのは、原宿で雅が愛おしそうに見つめていたペンギンのぬいぐるみだった。渡すタイミングを伺っていたら、別れ際になっていた。


 千颯からのサプライズプレゼントに雅は感激する。


「千颯くんが買ってくれたん? 嬉しいわぁ」


 キラキラとした笑顔を浮かべながら純粋に喜ぶ雅を前にすると、千颯は気恥ずかしくなる。照れ隠しをするように、プレゼントの大義名分を伝えた。


「彼女のフリをしてくれてるお礼だよ」


 あとは、今朝駅で守ってあげられなかったことに対するお詫びの意味もあったが、そのことはあえて口に出さずにいた。余計なことを思い出させたくなかったからだ。


 雅はぎゅっとペンギンのぬいぐるみを抱きしめる。そしてペンギンを見ていた時と同じような、とろけるような微笑みを千颯に向けた。


「千颯くんは、ほんまにええ男やなぁ」


*・*・*


 翌日もいつも通り駅で雅と待ち合わせて、学校へ向かった。

 教室に辿り着くと、クラスメイト達が一斉に二人に注目した。


 何事かと焦っていると、クラスでも目立つ女子達が興味津々といった視線で千颯達を取り囲んだ。


「ねえねえ、昨日原宿でデートしてたって本当?」

「隣のクラスの子がね、二人が原宿で歩いてるとこ見たんだって」

「学校サボってデートなんて、千颯も大胆なことするんだねっ」


 まさかクラスメイトに昨日のことがバレていたとは。完全に油断していた。


 千颯一人ならまだしも、雅までサボりのレッテルが貼られてしまったことに申し訳なさを感じた。


 心配の意味も含めて様子を伺うと、雅は悪びれる様子もなく余裕の笑みを浮かべていた。


「昨日なぁ、ちょっと色々あってなぁ。先生には黙っとってくれると嬉しいわぁ」


 下手に隠さず、堂々とサボり認める雅。その潔さに好感を持てたのか、女子達は雅を咎めることはしなかった。


 しかし、明らかに面白くない表情を浮かべている人物が一人。愛未だ。


 愛未は冷めた視線で千颯達を見つめる。かと思えば、おもむろに椅子から立ち上がり、千颯達の前にやって来た。


「相良さん、話があるの」


 愛未は両腕を組みながら雅の前に立ちはだかる。その姿は、悪の女王のようだった。


 対峙する雅は、まったくもって怯んでいない。


「ええよぉ。放課後にお話しよかぁ」


 はんなりとした口調で口角を上げて対応する雅だったが、その瞳は相手の格を見定めるように鋭く輝いていた。


◇◇◇


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作品ページ

https://kakuyomu.jp/works/16817330659490348839

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