第19話 ウィンドウショッピング
「
クレープを食べ終えて、竹下通りをあてもなく歩いていると、唐突に
「妹と来るときは、ラファーレとか行ってるかな」
ラファーレとはアパレルブランドが複数入った商業施設だ。普通のショッピングモールには入っていないような個性的なブランドも入っていて、見ているだけで飽きない場所だった。
「ラファーレ! 流行の最先端やん! おしゃれな場所知っとるなぁ。さすが東京の男!」
「いや、妹の荷物持ちで行ってるだけだから」
「うちも連れてってー。ラファーレ行ってみたいわぁ」
「うん。じゃあ行こうか」
雅の要望でラファーレに向こうことにした。
実際あそこは女子高生が好みそうなショップがたくさん入っているから、退屈はしないだろう。雅が楽しんでくれるなら行く価値はある。
二人はラファーレを目指して歩き出した。
店内に入ると、再び雅は「可愛い可愛い」と連呼し始めた。こんなにテンションが高い雅は、学校ではめったにお目にかかれない。
この数時間の間で、雅の意外な一面をたくさん発見したなぁ、と千颯はしみじみ感じていた。
「見て見て千颯くん! ロリータ服やて!」
千颯の腕を引っ張りながら、ロリータ系の服を扱うショップに向かう雅。店内には童話に出てくるような甘めのジャンバースカートが綺麗にディスプレイされていた。
「こういう系統の服好きなの?」
「うちは着やんけど、見るのは好き」
「へー、雅も似合いそうだけどな」
雅がロリータ服を来た姿を勝手に想像する。雅は童顔で小柄だからロリータ服を着たら童話に出てくる女の子みたいになる気がした。アリスとか赤ずきんとかそういう類の。
「あかん、あかん。うちには可愛すぎるて。まあ、千颯くんがどうしても着てほしい言うなら考えんでもないけどなぁ」
「え? ホントに?」
つい真に受けてしまったが、雅お得意の冗談であることがすぐに分かった。
「冗談やて。本気にせんといて」
「そっすかぁ……」
千颯は苦笑いする。ちょっぴり残念に思ってしまったのは、千颯の胸の内だけに留めておくことにした。
それから二人は、ファンシーなぬいぐるみや文房具が売っているショップで足を止めた。
「千颯くん、ここ見てもええ?」
千颯が頷くよりも先に、雅は店内に入っていった。
淡いピンクと紫の配色の店内は、いかにも女子といったファンシーな雰囲気だった。男子高校生が入るには場違いに思えたけど、すでにロリータ系のショップに入った後だからいまさら抵抗する気は起きなかった。
雅を追いかけるように店内に入る。ディスプレイされた商品を一通り眺めた後、水色のペンギンのぬいぐるみの前で雅が足を止めた。
「この子、可愛ええなぁ」
ペンギンを手に取り、とろけるような笑顔を浮かべる雅。他のぬいぐるみと比べても、ひと際愛着を感じているようだった。
「欲しいの?」
「連れて帰りたいけど、今日はやめとくわぁ。今月はチケット代で使い過ぎてしもたからなぁ」
何のチケットか、というのは聞くまでもないだろう。推しがいるというのはお金がかかるらしい。
雅は名残惜しそうな表情で、ペンギンを棚に戻した。
雅が別の棚に移動したタイミングで、千颯はペンギンを手に取る。そしてさりげなく値段を確認した。
(うん。これくらいなら大丈夫だ)
そのまま雅に気付かれないように、ペンギンをレジに運んだ。
*・*・*
「今日は楽しかったわぁ。案内してくれてありがとうなぁ」
雅は満面の笑みを浮かべながら千颯の隣を歩く。その足取りは軽く、いまにもスキップしそうな勢いだった。
「楽しんでもらえてよかった」
千颯は心の底からそう感じていた。
服を着替えるために千颯の家に寄ったところ、玄関先で厄介な人物と鉢合わせた。
「千颯が女の子家に連れ込んでる……」
「うわっ、
目を丸くして千颯達を指さしていたのは、妹の凪だった。
腰まで伸びた長い黒髪に、透き通るような白い肌。細身の体型にはセーラー服をまとっていた。一見すると清楚なお嬢様だが、中身は清楚とはかけ離れていることを千颯は知っている。
まだ六時前だったから凪は帰ってきていないと踏んでいたが、あてが外れた。できることなら会わせたくなかったけど、会ってしまったものは仕方がない。
千颯の隣で「あの子は誰?」と言いたげな表情をする雅に、妹を紹介した。
「えっと、これは妹の凪」
「初めまして! 千颯の妹の凪です!」
凪はわざとらしく敬礼をする。目の前の少女の正体が分かったところで、雅は「ああ」と納得したように声を上げた。
「妹さんかぁ」
「うん。あまり自慢ではない妹だよ」
「おうおうおう、それは聞き捨てならないぜ、お兄様よう」
凪はチンピラのようにメンチを切っていたが、無視して雅を家に入れた。
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