第15話 みんなの反応
雰囲気イケメンへと進化を遂げた
「どうしたんだよ、千颯」
「なんか急に垢抜けたな」
「どういう心境の変化なの?」
ぐいぐいと詰め寄られて千颯は後退りする。チラッと
自信持って。口には出さなかったけど、そう言われているような気がした。
千颯は背筋を伸ばす。そして若干の照れくささを残しながら、ありのままを伝えた。
「ちょっとは雅に釣り合う男になりたくて」
千颯の言葉に、クラスメイト達は目を
引かれたらどうしようと心配していた千颯だったが、クラスメイトの反応はまったく逆だった。クラスメイト達は目を細めてほっこりした表情を浮かべる。
「千颯、お前も色々悩んでたんだな」
「彼女のために変わろうとするなんて健気過ぎる」
「なんだろう? 純粋だった頃の記憶が蘇ってくる!」
揃いも揃って、まるで成長した我が子を見守るような温かい視線を向けていた。そこには敵意は微塵も伺えない。
予想外の反応に、千颯が一番驚いていた。なんと返事をすればいいのか迷っていたところ、男子生徒の一人にとんと肩を叩かれた。
「不釣り合いなんて言って悪かった。これからはお前らを見守るよ」
「あ、ありがと」
反千颯勢力から千颯を見守ろう会にシフトチェンジしたクラスメイト。ひとまずはボッチを回避できて安心した千颯だった。
*・*・*
千颯の変貌を見てほしい人物がもう一人いる。
雰囲気イケメンへと進化を遂げたいまの千颯の姿を見せつけて、振ったことを後悔させてやりたかった。
しかし、朝の段階では愛未の姿はない。ホームルームが始まってから、担任から愛未が遅刻するという知らせを受けた。
お披露目のタイミングが先送りになったことで、千颯はがっくり肩を落とした。
午前中の授業が終わってからも愛未は登校しなかった。退屈な気分のまま、千颯は外の自動販売機に向かった。
自動販売機で抹茶オレを買って教室に戻ろうとした時、疲れたような表情をした愛未が気だるげに歩いてきた。
(愛未、具合でも悪いのかな?)
そう思いながら直視していると、不意に愛未と目が合った。千颯を認識した愛未は、目を見開く。そして引き寄せられるように千颯の前にやって来た。
「千颯くん、雰囲気変わった?」
愛未は一目で千颯の変化に気付いた。さっそく気付いてもらえたことに、千颯はこっそり浮かれる。
「ま、まあね」
にやけてしまいそうな表情を隠しながら、ポリポリと頭を掻く。傍から見れば浮かれ具合はまったく隠せていなかった。
愛未は上から下までじっくりと千颯を見つめる。何か言いたげに口をもごもごとさせていたが、結局言葉になることはなく視線を落とした。
「ふーん、いいんじゃない?」
予想以上にドライな反応をされ、千颯は拍子抜けする。
(え? いいんじゃないってどういうこと? まさかどうでもいいって意味なんじゃ……)
そのまま愛未は千颯の隣を通り過ぎようとする。呼び止めようとした時、視界の端に白と黒の物体が入った。サッカーボールだ。
サッカーボールは愛未を目指して飛んでくる。千颯は咄嗟に身体が動いた。
「危ない!」
「え?」
千颯は愛未を庇うように飛び出す。勢いのあったサッカーボールは、痛みを伴いながら背中に直撃した。
愛未への直撃を避けられたことで、千颯はホッと胸を撫で下ろす。
しかし壁際でガードした拍子に、愛未を壁に押し付けるような体勢になっていたことには千颯は気付いていなかった。
サッカーボールを蹴った張本人が、申しわけなさそうなに両手を合わせた。
「悪い、千颯! コントロールミスった!」
ボールを蹴ったのは同じクラスのサッカー部の男子だった。リアクションからして、わざと狙ったわけではなさそうだ。
千颯はサッカー部男子に注意する。
「こんなところで蹴るなよ! 先生に見つかったら最悪部活停止になるよ?」
「そうだよな! ちょっと調子に乗り過ぎた」
男子生徒は、ボールを両手で抱えると、「ごめんなー」と叫びながら退散していった。
「まったく、困ったもんだね」
男子生徒が去ってから千颯は溜息をつく。それから愛未に視線を向けた。
「大丈夫? 愛未」
千颯の腕で壁に押さえ付けられていた愛未は、顔を真っ赤にしていた。
「だい、じょばない」
たどたどしい口調でそう答えると、愛未は千颯の腕から抜け出す。それから真っ赤な表情のまま取り乱したように叫んだ。
「この前の仕返しのつもり? やめてよ、もう!」
愛未は千颯から逃げるようにどこかへ走り去っていった。
「に、逃げられた……」
千颯はショックのあまり、その場に立ち尽くす。
するとちょうどそこに、雅がやって来た。
一部始終を見た雅は、「ほほう」と感心したように千颯を見つめた。そのまま千颯に駆け寄る。
「やるやないか! 壁ドン返しやん」
感心する雅とは裏腹に、千颯は自分がしでかしたことの重大さには気付かず、凹んでいた。
「逃げられるなんて、愛未はやっぱり俺のこと……」
「無自覚かい! 一番性質悪いで!」
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