第8話 放課後デート
「
帰りのホームルームが終わると、
傍から見れば仲のいいカップルだ。周囲の男子達は、悔しそうにギリギリと歯ぎしりをしていた。
男子達の恨めし気な視線を感じながら、千颯は雅を引き連れて、足早に教室から去った。
駅まで続く並木道を歩き、電車に乗る。
帰りの電車は朝とは違って空いていて、過度に密着する必要はなかった。
千颯は雅と適度に距離を取って会話する。
「今日は一日ありがとう。助かったよ」
「結構好き勝手やさせてもろうたけど、こんなんでええの?」
「十分過ぎるくらいだよ」
実際、雅の彼女っぷりは完璧だった。ぎこちなさは一切感じさせない。傍から見れば、本当の彼氏彼女に見えるほどだった。
本人は結構ノリノリでやっているように見えたけど、本心ではどうなんだろう?
学校での雅は終始にこにこ笑っていたから、本心が読めずにいた。
「雅は大丈夫? 俺が付き合ってるって公言しちゃったから、みんなからあれこれ噂されるようになっちゃたし」
「かまへん、かまへん。浮いた話の1つや2つあったほうが、色気あるやろ?」
「でも、相手が俺じゃあ……」
「何言うとるん。千颯くんは十分ええ男やで」
「それ本気で言ってる?」
「ん? んーん……」
雅は笑ってはぐらかした。雅のことがちょっと信用できなくなった。
そんなやりとりをしている間に、電車は雅の最寄り駅に到着した。雅に続いて千颯も電車から降りる。
「あれ? 千颯くんも降りるん?」
「うん。改札までは見送ろうと思って」
「律儀やなぁ」
雅は感心したように頷いていた。
改札までやってきて、千颯は手を振る。
「じゃあね、また明日」
「今日はおおきに。せっかくやし、お茶でも飲んでく?」
「え? お茶?」
突然のお誘いに千颯は驚く。まさかお茶の誘いを受けるとは思わなかった。
戸惑いはあったが、断る理由はない。千颯は雅のお誘いを受けることにした。
「時間あるし、カフェとか寄ってもいいよ」
「え……」
自分から誘ったくせに、雅は不思議なものでも見るような視線で千颯を見つめていた。
「ほんまに行くん?」
「そっちが誘ったんじゃん」
「いや、そうなんやけど……」
「どういうこと? 自分の言葉に責任もって」
二人の間に微妙な空気が流れる。雅は少し考え込んだ後、小さく溜息をついた。
「ほな、行こか。駅前にスバタがあるから」
なんだか千颯が無理やりお茶に付き合わせたような雰囲気になったけど、結果的に二人はカフェに立ち寄る流れになった。
*・*・*
「トールサイズのダブルチョコ抹茶クリームフラペチーノをお願いします」
「なんて?」
千颯はいつもの感覚で、お気に入りのドリンクを頼んでしまった。
しまったと思った時には、既に注文を口にしていた。
項垂る千颯だったが、雅は嫌悪感を示す様子はなく、単純に興味を持っていた。
「そんなんメニューにある?」
「いや、これはカスタマイズしたもので……」
「ああ、元カノをドン引きさせたあれか」
ストレートに言われて千颯はダメージを受ける。昨日受けた心の傷が疼いた。
へこむ千颯の隣で、雅は意外な行動をした。
「じゃあ、うちも同じのでお願いします」
「へ?」
まさか雅まで同じものを注文するとは思わなかった。千颯が呆気に取られていると、雅はくすっと笑った。
「なんやのその反応? これが千颯くんのおすすめなんやろ?」
「それは、そうだけど……」
戸惑いはあったけど、正直なところ嬉しかった。
引くどころか同じものを注文してくれるなんて、まるで千颯の好みを認めてもらえたような気がした。
いやな記憶を塗り替えてくれた雅に、千颯は心の中でお礼を言った。
ドリンクを受け取ってから、並んでカウンター席に座る。雅の右手には千颯おすすめのフラペチーノがあった。
ストローでちゅっと吸うと、雅はパァァっと目を輝かせた。
「これ、美味しいなぁ」
「だよね! 良かった、気に入ってもらえて」
雅に美味しいと言ってもらえたことで、千颯は思わず嬉しくなった。
千颯もストローで一口吸う。チョコレートの甘さと抹茶のほろ苦さが口の中で一度に広がった。うまい。正直、これしか勝たん。
糖分をたっぷり摂取して軽くハイになっていると、隣に座る雅がゆったりした口調で話しかける。
「うち抹茶好きなんよねぇ」
「そうなの? やっぱ京都だから?」
「せやねぇ。宇治の抹茶は有名やからね。お母さんもよくお抹茶
「お母さんが抹茶点てるの? すごっ!」
家で抹茶が出てくるなんて想像できない。
京都ではそれが普通なのか? それとも雅の家が特殊なのか?
どちらにしても、抹茶どころか急須で入れた煎茶すら滅多に出てこない千颯の家とはまったく異なる家庭環境であることがわかった。
それから雅は、話題を千颯へと移す。
「話は変わるけど、千颯くんはなんで木崎さんを好きになったん?」
「ぐふっ」
唐突な質問をされてフラペチーノを吹き出す千颯。
雅は「あーあー」と呆れたような表情を浮かべながらティッシュを差し出した。
まさかこのタイミングでそんな話を切り出されるとは想像していなかった。
自分が恋に落ちた瞬間なんてできることなら語りたくない。
だけど、作戦に協力してくれている雅に訊かれたなら、はぐらかすのも不誠実に思えた。
「そんなの聞きたい?」
「うん、聞きたい」
雅はニヤッと小悪魔的な笑みを浮かべながら、千颯が暴露するのを待った。
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