第3話 交渉成立
好みの問題もあると思うが、百人の男子高校生にアンケートを取ったら、8対2くらいの割合で相良雅に軍配が上がるだろう。
愛未を見返すには絶好の相手だ。
その事実に気付いた瞬間、
「俺と付き合ってください!」
「は? 何言うとるん?」
相良雅は顔を引き攣らせながら後退りする。引かれていることには気付いていたけど、ここで退くわけにはいかなかった。
「相良さんさっき、俺のこと良い男って言ったよね? それって相良さん的には、俺もアリってことでしょ?」
「いやいやいや! ええ男ゆうたのは、そういう意味じゃなくて」
「そんなぁ! 自分の言葉に責任を持ってくださいよ!」
「とりあえず、顔を上げやぁ」
「いいえ! 承諾してくれるまで上げません!」
千颯は地面に額を擦りつける。クラスメイト相手に何をやっているんだと馬鹿にされるかもしれないが、正常な判断力を失った千颯はこの光景の異常さには気付けなかった。
目の前の土下座男に怯える相良雅。それでも千颯は諦めなかった。
「本気で付き合わなくてもいいんです! 彼女のふりをしてくれるだけでいいから!」
「それって、木崎さんを見返すために偽彼女を演じるってこと?」
「その通り!」
「そんなん無理やわぁ!」
「1ヶ月でいいんで!」
「期間の問題じゃなくて」
「彼女のふりをしてくれるなら、何でも言うこと聞くんで!」
「何でも?」
藁にも縋る思いで交換条件を提示すると、相良雅の表情が変わった。
「ほんまに何でも聞いてくれるん?」
「俺にできることなら!」
「ふーん」
相良雅は両手を組んで考え込む仕草をする。しばらくすると考えがまとまったのか「しゃあないかぁ」と呟いてから千颯と視線を合わせた。
「偽彼女は引き受けるわぁ。そのかわり、朝一緒に登校してくれへん?」
「一緒に登校?」
思いがけない交換条件に千颯はきょとんとする。そんな千颯に、雅は事情を話した。
「うち、電車通学しとるんやけど、最寄り駅から一緒に登校してほしいんよ」
「別に構わないけど、どうして?」
「東京の満員電車ゆうんはかなわんなぁ。毎朝押しつぶされそうになってん。それに最近はけったいな男にも目ぇ付けられとってなぁ」
「要するにボディーガードってこと?」
「そやなぁ」
相良雅の要望は、思いのほかあっさり叶えられるものだった。千颯は条件をのむ。
「それくらいお安い御用だよ」
「ほんま? おおきに」
相良雅は両手を合わせ、周囲に花が咲くようなパァァとした笑顔を浮かべた。
その表情に千颯はドキッとする。美少女の笑顔は、破壊力がデカすぎた。
千颯は赤面する顔をパンと両手で叩いてから、地面から立ち上がる。そして相良雅に右手を差し出した。
「それじゃあよろしくね。相良雅」
「なんでフルネームなん? 雅でええよー」
「呼び捨てなんて恐れ多い」
「彼女のふりするんやろ? 呼び捨ての方がそれっぽいやん。うちも千颯くんって呼ばせてもらうなぁ」
クラスで人気の京美人と下の名前で呼び合っていたら、クラスメイトから攻撃的な視線を向けられるだろう。
いや、偽とはいえ、彼女になってもらうのだから、これ以上の攻撃を受ける可能性もある。最悪血祭りにされる。
だけどやると決めたからには腹をくくるしかない。千颯は「よし」と自分に喝を入れた。
「じゃあ、あらためてよろしく、雅」
「よろしくなぁ、千颯くん」
雅は千颯の手を取って、にっこりと微笑んだ。
交渉成立だ。
かくして千颯は京美人を偽彼女にして、元カノである愛未を見返す計画を立てたのだった。
◇◇◇
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