第4話 ~狙撃~
「ここが弓の訓練場か。広いな。」
「あぁ。王国軍の訓練場よりもな。」
大体、150mほどの奥行がある訓練場。遠くには的が見える。フライパンのような金属の板だ。
「あの的に矢を……。当たるもんなんですか?」
現世の弓道は遠的が60mだった。アーチェリーなら70m。この距離は厳しいのではないか……。
周りを見ると、やはり多くの人が矢を外している。
「まぁ、やってみることにします。」
俺は、M82A1を地面に据え付けた。イヤーマフを装着して準備は万端。
「なぁなぁ。あれってゴブリン殺しじゃねぇか?」
弓使いの冒険者たちがこちらを見てくる。次第に人も増えてきて、少し恥ずかしい。
落ち着こう、ゼロインは150m。トリガーに指をかけた。たくさんの人に見られていると緊張するな。
「ふぅ……。」
当たる。そう信じて、俺はトリガーを引いた。
ドゥーーーン……カランカランカラ……
大きな音とともに、弾が出ていく。薬莢が出てくる。反響する射撃音、薬莢の落ちる音。轟音の後に聞こえる、ガスが抜けるようなプスゥーという音。撃つと体中を駆け巡っていく反動。すべてが最高。ただ、それ以上に驚いたのは、的が粉々になっていたこと。
「あぁ……。的が……。」
マスターは驚きのあまりか、言葉が出てきていない。
「これを一つ目オーガの目玉にぶち込みます。」
「だが、オーガの皮膚は鎧のように固い。目を閉じられたらどうするんだ?」
マッハ2.5で弾が飛んでいるなんて言えないよな……。
「大丈夫です。安心してください。」
距離による速度の減衰が心配だが、大丈夫だろう。音速を越えているのだから。視界に捉えられなければ問題ない。1km先ほどからの狙撃を予定しているし。
「その武器何なんですか!?」
「一緒にパーティー組みませんか!?」
「ちょっと触らせてください!」
おびただしい数の冒険者が詰め寄ってくる。次の瞬間、マスターが言い放った。
「彼は私のパーティーの人間だ。お前らは黙っておけ!」
マスターが大きな声で言った。
恥ずかしいですよ。マスター。
マスターと平野へやってきた。気持ちいいくらいにどこまでも続く平野。すぐにオーガを見つけることができた。
「あそこにいますね……。」
マスターに伝える。
俺は、召喚しておいたレーザーレンジファインダーを手に、敵オーガとの距離を測った。1300mか……。遠いな。
「もう少し近づきましょう。」
マスターに伝え、俺は小走りでオーガのほうへ向かった。レーザーレンジファインダーは970mを指している。
俺は射撃体勢に入った。イヤーマフを装着し、バイポッドで銃を地面に固定。ゼロインを完了させ、念のため再度レーザーレンジファインダーで測る。距離は960mを指している。ゼロイン調整を行い、トリガーに指をかけた。
「撃ちますね。」
マスターに報告する。
「わかった。」
一度深呼吸を行い、トリガーを引いた。
バスァーン!プスゥー...
訓練場よりも音が響いている。ゲームのようで気持ちがいい。
「おぉ。やるではないか。」
一撃でオーガの目に直撃したようだ。
「よかったぁ。マスター!とどめと皮をはぐのをお願いしてもいいですか?」
「あぁ。任された。」
彼は大きな剣を出した。剣の周りを風が覆っている。剣を大きく振りながらジャンプをしたマスターは、空高く跳んだ。1分もしない内にオーガのところへ到着している。1km近くあったはずだぞ…。
マスターは、オーガの腹に剣を突き刺す。一瞬にして風穴が空く。恐ろしい。更に、剣を巧みに操りながら皮を剝いでいく。
何事もなく家に戻りたかったが、帰路で事件は起こった。うっそうを生い茂る森。その先にヤツはいた。
「おい。お前、あれを見ろ。」
ギルドマスターが小さな声で囁く。指をさす先には、大きなゴブリンがいる。
「あぁ。あれはゴブリンですか?」
「その通りだ。だが、普通のゴブリンではない。シアンゴブリン、有毒なガスと強力な紫の炎で攻撃してくる厄介な敵だ...」
「そうですか。では、倒しましょう。」
「できるのか?いや、お前ならできるか。」
俺は、M82A1を取り出し、攻撃用意をした。
森の奥、おぞましいオーラを出す奴は、シアンゴブリンというらしい。
俺はM82A1を出し、射撃用意を……。
「あれは……。」
シアンゴブリンの近くに誰かいる。どうやら女性のようだ。
「やめて……やだ……やめて……ください……。」
泣いている。若い。泣いている。
「撃つのかい撃たないのかい、どっちなんだい?」
マスターが問いかけてくる。
「撃たない。いや、撃てない。」
巻き込んだらどうする?それに、植生が濃すぎる。小さなゴブリンに、この状況で確実な当てれる自信はない。
「近づいて攻撃します。援護を頼めますか?」
「わかった。」
マスターも承諾してくれた。俺はゆっくりと敵との距離を詰める。
「は。あぁ。助けてください!」
彼女がマスターのほうへと走っていく。
「おい。止まれ!」
マスターが言う。
距離を詰められたら燃やされてしまうのだからそう言うのも仕方がない。ゴブリンがドシッドシッと鈍い音を立てながら突っ込んでくる。
「やってくれ。」
マスターが言う。冷静に彼は剣を構えた。
俺はGlock18を取り出し、フルオートに切り替えて狙いを定めた。
シャシャシャシャシャシャ
射撃音はかなり小さい。いや、対物ライフルと軽機関銃しか撃ったことないのだから一概に言えないが。たが、反動は驚くほど大きい。頑張って力を入れるが、それでも抑えれていない。
「よくやったな。」
マスターに言われた。ゴブリンに風穴を開けてやったが、それだけでは済まなかった。
「あ゛あ゛ぎゃぁぁぁぁ」
彼女が叫んでいる。
外した弾が彼女に当たっていた。右腕だ。掠っているという言うか、えぐれている。
「マスター。これって治せますかね???」
「うむ……。一応町まで運ぼう。」
マスターは言う。
だが、町まではかなりの距離がある。
やっちまったな……。大動脈には行っていないし、弾も抜けている。だが、出血がひどい。
「マスター。今から見るもの、内緒にしていただけますか?」
「わかった……。」
「スキルを使います。」
聞いた話によると、適性検査の球とギルドの球は違うらしく、ギルドの人はその人のスキルを知ることができないらしい。
つまり、このスキルを知るのは適性検査のじいさんと私だけだ。驚かれるかもしれないが、一刻も早く運ばなければいけない状況。
俺は召喚スキルで、狭い場所から出発できてかつ高速移動が可能なものを召喚することにした。
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