第3話 恐れおののけ! ティセ子さん、威嚇する!!

「平和的な人たちかも知れませんね」


「いや、平和的なら棍棒を振りかざしたりしないだろうし、そもそも人じゃないし!」


 ラヴィーさんが冷静に突っ込みます。


 そこでティセ子さんがついとコボルト(仮称)たちの前に出ました。


「暴力は感心しませんが、致し方有りません」


「お、おい! やり過ぎるなよ!!」


 自分から本気で戦えと言ったのに、ラヴィーさんはびびりまくりです。


「大丈夫です。威嚇します」


「威嚇……?」


「威嚇です。鳥類は翼を大きく広げる事で敵を威嚇します」


「いや、それは分かっているが……」


 怪訝な顔のラヴィーさんに構わずティセ子さんはコボルト(仮称)の前で両手を広げました。


 威嚇のポーズ!!


「いやいや、全然効かないだろう。それ!」


 ラヴィーさんはそう言いますが、ティオさんは落ち着いてコボルト(仮称)を観察してました。


「効いてるみたいよ」


 コボルト(仮称)の群れは、ちょっとおびえているようだ!


「え、なんで!?」


「両手を広げると、身体が大きく見えますからね」


 ティセ子さんはそう言いながら両手を広げてますが、あまり大きくなったようには見えません。


「それは鳥類の威嚇というよりは……。それレッサーパンダの威嚇!!」


 レッサーパンダは敵を威嚇する時、後ろ足で立ち上がり前足をあげるといいます。確かにティセ子さんの威嚇は、ラヴィーさんの言う通り鳥類というよりはレッサーパンダです。


 しかしティセ子さんは気にしません。


「レッサーパンダ。可愛いですよね」


「そ、そうだな」


「私はジャイアントパンダよりレッサーパンダの方が好きです。可愛いので」


 ティセ子さんはそう言いました。


「可愛いよね」


 ティルさんがそう言いました。


「可愛いわね」


 ティオさんがそう言いました。


「まぁ確かにレッサーパンダの方が小さくて可愛いと言え無くもない……。って、いつの間に戻ってきた。ポメラニアン!」


 いつの間にかちゃっかり戻ってきていたティルさんにむかって、ラヴィーさんはそう訊ねます。しかしティルさんは首を傾げるばかりです。自分でもどうやって戻ってきたのか分からないようですが、仕方ありません。余り頭が良くないので。


 さて一方のコボルト(仮称)の皆さん。どうやら群れのボスらしき個体が出てきました。体格も一回り大きくて、ぼろぼろで拾い物らしい鎧も着けて、折れているとはいえ大きな剣も持ってます。


「ぐがあああ!」


 ティセ子さんに威嚇しかえします。


「なかなか手強いようです。それではもうちょっと恐ろしげに威嚇してみます」


「恐ろしげに……」


 ティセ子さんの言葉にラヴィーさんはいささか不安げな顔で。そしてその不安は的中してしまいました。


 ティセ子さんは大きく広げた両手を激しくぱたぱたさせました。激しくぱたぱたしてますが、まったく恐ろしげではありません。どちらかいうとレッサーパンダからペンギンに変わったようなものです。


 しかし!


 ティセ子さんはさらに威嚇した。効果は絶大だ。コボルト(仮称)の群れは恐れおののいている。


「恐れおののいています」


 ティセ子さんの言う通り、コボルト(仮称)たちは縮こまっておびえているようです。


「え、何故?」


「私の威嚇は恐ろしいですからね」


「恐ろしいよね」


 ティルさんは言いました。


「恐ろしいわね」


 ティオさんも言いました。


「恐ろしいのか?」


 訊ねるラヴィーさんに、ティセ子はまた威嚇のポーズをしてみせました。


「あ、確かにちょっと恐ろしい」


「私の恐ろしさが分かりましたか」


「うん、お風呂上がりに素足で歩いている時、目の前にレゴブロックが落ちていて、あれを踏んだら痛そうだなと思う程度には恐ろしい」


「それは恐ろしいですね。恐ろしく泣いてしまいそうです」


 微妙な恐ろしさですがティセ子さんは納得したようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る