第2話 悲劇! 姉妹は揃ったが、またもや長女がいない!
そんな和やかなやりとりをしているうちに、なにやら森の奥の方へ騒がしくなってきました。
見ると頭が犬や狼に似た人間型のモンスターが集団で現れたではありませんか。みすぼらしい格好ですが、手に手に棍棒のような物を持ち剣呑な雰囲気です。
「モンスター! コボルトだな!!」
ラヴィーさんはやる気満々で剣を抜きました。
「刃物は危ないですよ」
ティセ子さんは良い子なので注意してあげました。
「うるさい、刃渡り1.8天文単位!」
ちなみに1天文単位とは地球が太陽を回る平均半径です。なぜラヴィーさんがティセ子さんを刃渡り1.8天文単位と呼ぶのかは本編を読んで下さい。
「ぐぎゃあ~~!」
そんな事を言っている間に、コボルト(仮称)は襲いかかってきます。
「おい、愛玩鳥類! お前も剣を出して戦え!」
ティセ子さんたちはbioクラフトと呼ばれる特殊な生命体ですが、一人一つの武器を召喚できます。あと本体は超でかい宇宙船です。
「暴力は感心しませんね」
それもそうです。
「いや、感心しないとか言ってる場合じゃ無いから!」
それもそうです。
「ぐぎゃああ!!」
ティセ子さんたちに構わず、コボルト(仮称)の群れは二人を取り囲もうとしています。
「ううむ、いかん。囲まれたぞ」
ラヴィーさんはそう言った時です。
「あはははは! 犬~~ッ、犬!!」
突然、バカでかいハンマーを振り回す、余り頭が良く無さそうな女の子が乱入してきました。
「犬~~、犬~~! 遊ぼ!!」
「な、なんだ。ポメラニアンも来て居たのか」
ラヴィーさんはポメラニアンと言ってますがポメラニアンではありません。ハンマーをぶん回しているのは、ティセ子さんのすぐしたの妹ティルさんです。なんとなく頭の悪いポメラニアンぽいので、ラヴィーさんは勝手にポメラニアンと呼んでます。
ちなみにハンマーはbioクラフトの能力で召喚した物です。
「犬~~! 犬~~!!」
自分の身体と大差ない大きさのハンマーをぶん回してるので危なっかしくてしようがありません。コボルト(仮称)たちも逃げ回っています。
「……あれは暴力じゃないのか?」
ラヴィーさんはティルさんを指さしてティセ子さんに訊ねました。
「微笑ましいですね」
「微笑ましいのか」
「微笑ましい。実に微笑ましいと思います」
「まぁ実際にぶん殴ってるわけじゃないから、それでいいんじゃないの?」
突然、会話に割り込んでくる女の子がいます。長い銀髪ですらりとした長身。ティセ子さんはもちろん、ラヴィーさんよりもずっと大人っぽく見えますが、これでも二人より年下。ティセ子さん姉妹の一番下の妹、ティオさんです。
「アビシニアンも来て居たのか。お前たち愛玩小動物姉妹、勢揃いではないか」
ポメラニアンと同様、アビシニアンもラヴィーさんがティオさんへ、勝手に付けてるあだ名です。ちょっぴりアンニュイでエキゾチックな印象……、というよりは怠惰で気まぐれな雰囲気が、何となくアビシニアン
「いいえ、勢揃いではありません。姉が居ません」
「居ないわね」
ティセ子さんの言葉にティオさんも肯きます。
「なんだ、姉はまた仕事か」
「いいえ、姉は呼びませんでした」
ティセ子さんの姉はティラさんですが、色々とお仕事で忙しい人なのです。
「姉は恐いですからね」
「恐いわよね」
ティオさんも同意見のようです。
そんな事を行っている間に、ティルさんに一度は追い散らされたコボルト(仮称)たちは、ティセ子さんたちの方へ向かってきました。ティルさんはどこかへ行ってしまったようです。
「おい、ポメラニアンはどうした!」
ラヴィーさんの問いにティセ子は答えました。
「ティルは犬も好きですが、お花も好きです。きっと綺麗なお花を見つけて、そちらに気を取られてしまったのでしょう。飽きれば戻ってきます」
「ホントッ、頭の悪いポメラニアンだな!!」
「ぐぎゃ~~!!」
コボルト(仮称)の群れはティセ子さんを取り囲みました。
「おい、お前たちも本気出して戦え!」
ラヴィーさんはティセ子さん姉妹にそう言いました。
「本気」
ティセ子さんは言いました。
「本気?」
ティオさんも言いました。
「私たち姉妹が本気を出すと、半径数億光年の局所銀河団が吹き飛びますが?」
本当です。
「このような田舎、いえ自然環境に恵まれ生物も生育可能な惑星を吹き飛ばすのは感心しませんね」
「いや、だから! 適当に手加減してだな!」
ラヴィーさんは必死ですが、ティオさんはある事に気がつきました。
「こいつら、脅してるだけで攻撃してこないわよ」
ティオさんの言う通りです。コボルト(仮称)の群れは、手にした棍棒や折れた剣を振り回しているだけで、なかなか襲いかかってきません。
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